法人の決算にあたり利益を調整する方法というのはいくつもあります。
一般的に知られているような節税策、たとえば経営セーフティ共済(倒産防止共済)の掛金の1年分の前納など、 といったことについては書籍やネットで書かれすぎていることなのでここでは書きませんが、税理士さんがあまり話さないような利益調整方法というものも存在します。
今回はそれらを中心に説明します。
まず、下記の図を見ていただきたいのですが、決算時の利益調整方法は決算日前の判断、行為によってほぼ決まってしまいます。
当たり前と言えばそのとおりなのですが、決算後に利益を調整しようとすれば、「減価償却資産の扱いをどうするか?」 くらいしか術がないということになります。
これらのことから、自計化(会社が日々の営業取引、経費の支払いなどを自社内で会計ソフトに入力すること)していて、早く経理処理ができて、そのデータを生かすことができる会社のみが利益の調整をできるということになるわけです。
では、具体的に利益調整策をみてみます。
まず、棚卸での利益調整ですが、多くの企業で採用している最終仕入原価法(注1)で考えれば、 同一商品を最後に通常価格より安い価格で仕入れれば、在庫の単価が下がり棚卸の評価金額が減ります。そしてこれは利益を減らすことにむすびつきます。
さらに言えば、棚卸の評価方法を変えることでも利益の調整ができてしまうこともあるのですが、これについては国税庁は厳しい規定(注2)を設けて抑止しています。
次に、製造品、仕掛品数量の調整ですが、製品は製造過程で付加価値をつけていけばいくほど評価額が高くなる。言いかえれば、製品という完成形に近づけば近づくほど、棚卸資産評価額が増加してしまうので、決算日には製造を抑えて税負担を抑えることができます。
そして、3番目が決算賞与です。賞与は、原則、従業員に支払った事業年度の損金となるのですが、一定の条件を満たしたうえで、期末に未払計上すればその期の損金で落とせるのです。(注3)
決算日後に利益を調整をする場合は、減価償却の扱いで対応することが中心になります。法人は減価償却が任意(注4)なのでそれで税額を調整することもできるわけです。また、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(注5)などで利益調整もできるのですが、これ以外には対策がしづらいのが現状です。
ただ、いずれの方法で利益調整をするにしても、社内での迅速な経理処理ができて、そこから得られるデータを、税法の知識をもとにして適格に判断できる人材がいなければ利益の調整は難しいことになります。
(注1)
最終仕入原価法とは、棚卸資産の評価方法(法人税法施行令第28条)の1つ。 同一商品、材料の決算時に最も近い仕入れ単価を使用して、原価の計算や棚卸資産の評価を行う方法。
(注2)
法人税法基本通達5-2-13 参考 国税庁HP
(評価方法の変更申請があった場合の「相当期間」)
5-2-13 一旦採用した棚卸資産の評価の方法は特別の事情がない限り継続して適用すべきものであるから、法人が現によっている評価の方法を変更するために令第30条第2項《棚卸資産の評価の方法の変更手続》の規定に基づいてその変更承認申請書を提出した場合において、その現によっている評価の方法を採用してから3年を経過していないときは、その変更が合併や分割に伴うものである等その変更することについて特別な理由があるときを除き、同条第3項の相当期間を経過していないときに該当するものとする。(昭55年直法2-8「十七」により追加、平14年課法2-1「十四」、平19年課法2-17「十一」、平20年課法2-5「十一」、平23年課法2-17「十一」により改正)
(注) その変更承認申請書の提出がその現によっている評価の方法を採用してから3年を経過した後になされた場合であっても、その変更することについて合理的な理由がないと認められるときは、その変更を承認しないことができる。
(注3)
参考 国税庁ホームページ No.5350 使用人賞与の損金算入時期(2)
(注4)
(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)
法人税法第三十一条 参考
内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第二十二条第三項(各事業年度の損金の額に算入する金額)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。
(注5)
No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
中小企業者等が、取得価額が30万円未満である減価償却資産を
平成18年4月1日から令和4年3月31日までの間に取得などして事業の用に供した場合には、
一定の要件のもとに、その取得価額に相当する金額を損金の額に算入することができます。
この特例の対象となる資産は、取得価額が30万円未満の減価償却資産(以下「少額減価償却資産」といいます。)です。
上記:国税庁HPより抜粋