「行動科学マネジメント」は、行動分析学をベースとする人材育成メソッドであり、人間の行動の法則に立脚した科学的なマネジメント手法である。科学的と は、「いつ、どこで、誰がやっても、同等の成果が得られる」ことを意味する。すなわち、「実験再現性(実験によって繰り返し同じ結果を得られること)を備 えているかどうか」が問題だ。勘や経験に頼ることなく、常に行動の法則に目を向けて部下を導くのが正しい人材マネジメントだといえる。
やり方は、(1)結果と直結している行動を発見する(2)結果と直結している行動を正しく測定する(3)測定結果をフィードバックする(4) 結果に直結する行動を増やす【強化】(5)行動を評価につなげる行動成果主義の導入の5つのステップに分けられる。
行動科学マネジメントは、従来のマネジメントとは異なる2つの特長を持っている。
第1に、従来のメソッドと融合して活用できることである。今までは新しいメソッドを導入するとき、人や企業文化を、無理にねじ曲げてでもその メソッドの形に合わせることを要求された。また、時にはせっかく作ってきた企業文化を捨てることもあった。しかし、行動に焦点をあてる「行動科学マネジメ ント」は、さまざまなメソッドやもともとある企業文化をカスタマイズすることができ、これまで培ってきた人材・経営資源を失うこともなく企業に導入できる のである。
第2に、従来の多くのメソッドは結果しか見ず、結果だけを測定し、結果だけを強化し、結果だけを評価し、結果だけを表示しようとしていた。行 動科学マネジメントは、従来のマネジメントが顧みなかった「行動」にも焦点をあてている。行動と結果の両方を重視してこそ、人は自発的に行動し始めるから である。
最近は、大卒の新人であってもなかなか挨拶ができないという話を聞く。これからちょうど新人が入ってくる会社も多いので、分かりやすい事例と して、「あいさつ」の行動を分解してみよう。挨拶を構成する要素を取り出してみると、以下のようなものが出てくる。
入り口のドアをしっかりと閉める。
「あいさつ線(あいさつをすべき場所)」で立ち止る
背筋を伸ばす
挨拶を行なう人を向いて目を合わせる
大きな声で元気よく「お願いします」という
お辞儀をする
このように「あいさつをする」という簡単な行動でも、六つに分解することができる。六つともマスターできれば、きちんとあいさつできたものと 見なすようにしていく。
これがすなわち「行動のレパートリーを渡す」ということになる。ちゃんとしたあいさつの仕方を知らなかった新人たちも、こうして行動のレパー トリーを与えると、ごく自然にあいさつができるようになってくる。
必要なことは「行動を分解する」「行動のレパートリーを渡す」「ほめる・認める」の三つと言える。
ここから分かるのは、教えもしないで「だめな子だ」と決めつけるのは大きな間違いだということ。「できない社員」は「できる社員」にすればい い。できないところを教えてあげればいい。社員がいつまで経っても「できない」のは、上司にも責任の一端があると私は考える。
「できる社員」はあなたの目の前にいる。「できない社員」というレッテルを簡単に貼ってはいけない。では、できない社員をどのように変えてい けばいいのか。それには社員の「人格」と「行動」を分けて考えることをおすすめする。
仕事ができないからといって人を入れ替えるのではなく、部下の「行動」の変えるようにする。
「人格」と「行動」を分離して考えることは、このメソッドの根幹であると言える。仕事ができないのは決して人格のせいではなく、その人の行動 が間違っているだけなのだ。
正しい行動さえ教えてあげれば、どんな社員も必ずできるようになる。自ら進んで行動し、着実に成果を挙げ、働くことに喜びを見出すようになる。 「行動」を変えさせると言っても、社員たちに監視の目を光らせるわけではない。そんなマネジメントは陰日なたのある態度を生むばかりで、自発的に動こうと する人がいなくなる。次号以降から、お話することを実践すれば、今まであなたがさじを投げていた「できない社員」も大きく生まれ変わってくるはずであ る。
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- 第2話 行動科学流「あいさつ」の教え方