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第165話 実はバイデン政権が習近平政権の最大の援軍だ

中国経済の最新動向

 バイデン政権が誕生以降の2年間、中国をアメリカにとって「これまでにない最大の挑戦」と位置づけ、台湾問題や気球問題で対中強硬姿勢を貫き、人権、科学技術、安全保障などの分野では数多くの中国企業に厳しい制裁を続けている。

 

一見すれば、バイデン政権は「反中政権」と言っても無理はない。しかし、肝心の経済分野では、バイデン政権はこの2年間に史上最大規模の8,008億ドルを対中貿易赤字の形で中国に渡した。この意味では習近平政権を支える最大の援軍は、実はバイデン政権だ。

 

 

◆史上最多を記録した中国の対米貿易黒字

 2018年に当時のトランプ政権は「対中貿易赤字の是正」を「米国の存亡をかける戦い」と表現し、米中貿易戦争を発動した。

 

 表1に示すように、同年7月から翌年にかけてトランプ政権は4回も対中制裁関税を発動し、約6800品目・2500億ドル相当の中国製品が制裁対象となった。一方、中国も対抗措置として約6000品目・1100億ドル相当のアメリカ製品に報復関税を発動した。その後、米中双方は交渉によって、一部製品の関税引き下げや追加関税適用除外措置を発表したが、全体的には依然として高い関税率を維持している。

 

 2021年バイデン政権が誕生後も、トランプ政権時代の対中関税制裁措置を維持し、米中貿易戦争は今も終結していない。

 

 それではアメリカの対中貿易戦争は対中貿易赤字の是正という効果があっただろうか? 米中双方の税関統計を調べたところ、トランプ政権が発動した対中貿易戦争は全く効果が無かったという結論に至った。本稿は中国税関の貿易統計を使い、検証を行う。

 

 図1の通り、2019年の中国対米貿易黒字は一時的に減少したが、翌年から再び増加に転じた。バイデン政権誕生後、21年3966億ドル、22年4042億ドル、2年連続で史上最多の記録を更新した。この2年だけで対米貿易黒字が累計8008億ドルにのぼり、同期中国貿易黒字全体(1兆5480億ドル)の52%を占める。

出所)中国税関の統計により沈才彬が作成。

 

 言うまでもなく、膨大の対米貿易黒字は中国の経済成長を力強く支えている。中国を「国際秩序を変える意思と能力を兼ね備えた唯一の競合国」と位置付けるバイデン政権は事実上、習近平政権を応援する最大の援軍となっている。

 

 

◆二律背反する関税制裁と禁輸措置

 なぜアメリカの対中貿易赤字は減らないか? その一因は関税制裁と禁輸措置の二律背反にあると思う。

 

 トランプ政権は中国に対し追加関税という制裁措置を発動した同時に、華為技術(ファーウェイ)をはじめとする中国の技術企業に対してはアメリカからの輸出禁止を実施してきた。

 

 2018年から23年2月まで、一体、どのぐらいの中国企業はアメリカの制裁を受けているか?米商務省の発表によれば、22年12月まで、合計633社の中国企業が禁輸リストに名を並べている。今年に入ってからは、さらに42社が禁輸リストに追加された。制裁を受ける約700社の中国企業はほとんど技術企業であり、米国からハイテク製品の輸入が不可能となっている。米中間の技術分断が一層進む実態が浮き彫りになっている。

 

 しかし、「対中貿易赤字の是正」という観点から見れば、関税制裁と禁輸措置は二律背反している。関税制裁は中国製品の輸入を制限し、対中貿易赤字の縮小に寄与するが、禁輸措置はアメリカの高付加価値製品の対中輸出を規制し、貿易赤字の拡大を招く。

 

 2つ目の原因は中国製品の国際競争力の向上だ。コスト削減や品質向上など中国企業の自助努力によって、アメリカ側の関税引き上げの影響を相殺し、対米輸出を増やしている。

 

 バイデン政権は今、米中分断を強力で進めようとしている。このアメリカの思惑は本当に実現できるか?

 

 中国の対米貿易黒字が2年連続で最多の記録を更新し、トランプ政権が発動した米中貿易戦争が事実上失敗した、という現実を見れば、筆者は米中分断の思惑に疑問符を付けざるを得ない。

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