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第103回 奴留湯温泉(熊本県)――1時間つかっていられる究極の「ぬる湯」

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■清掃と温泉の意外な関係

 大地のエネルギーを体感できる温泉はいわゆるパワースポットであるが、「清掃が行き届いた場所もパワースポットだ」と筆者は考えている。
 以前、出版社で編集者として働いていた頃、いわゆる「できる人」たちを取材させていただく機会が数多くあった。
 「できる人」というのは、仕事で成果をあげていたり、幸せな生活を送ったりしている人たちのことだ。
 そんな「できる人」のひとりが、こんな話をしてくれた。

 「幸せな人生を送っている人の多くは、身のまわりのそうじや片づけをきちんとやっている」。
 それからというもの、いろいろな人の机まわりや部屋を意識して見るようになったのだが、「できる人だなあ」と感心する人は、たいてい整理整頓ができていて、ムダなものが少なかった。
 「よい環境が人の心によい影響を与え、よい結果をもたらす」というのが、筆者なりの解釈である。
 これは温泉についてもあてはまる。

 週末、市街地のスーパー銭湯などに行くと、洗面器やイスが使いっ放しになっていたり、マナーを守らない客がタオルを湯船につけたりしている光景を目にする。
 もちろん、施設側はそうじをして清潔感に気を遣っているだろうが、モノが散乱していたり、利用者のマナーが悪かったりすると、せっかくの温泉の気持ちよさも半減である。

■地元の人に大事にされる共同浴場

 一方、浴室のそうじが行き届き、つねにキレイな状態に保たれていれば、人は「自分もキレイに使おう」と気をつけるので、自然とマナーもよくなる。
 すると、浴室によい秩序が生まれ、入浴者同士のコミュニケーションもうまくいく。
 こうした快適な環境で湯船につかれば、温泉の質も高く感じられる。

 つまり、そうじが行き届いた温泉は、プラスのパワーに満ちているのだ。
 人気の旅館や地元の人で管理している小さな共同浴場ほど、清掃をしっかりしていて利用客のマナーもすぐれている。

 熊本県・小国町の山間にある奴留湯(ぬるゆ)温泉にも、そんな清掃が行き届いた共同浴場がある。
 奴留湯温泉には旅館などはなく、集落の住民が毎日のお風呂に使う共同浴場があるのみ。
 営業時間を待って訪れると、地元の当番の方だろうか、おばあさんが入口のそうじをせっせと行っていた。
 無人の入浴施設で常駐する管理人はいないが、地元の人に大切にされているのが伝わってくる。

 「こんにちは、入ってもいいですか?」とあいさつすると、「どうぞ、いちばん風呂だから気持ちいいよ」と明るい声で返してくれた。
 地元の人よりも、先に入浴するのはちょっと気が引けたが、ありがたく先に湯をいただくことにした。

■いつまでもつかっていたくなる湯

 浴室の扉を開けると、「なんじゃこりゃ!」と思わず声が漏れてしまった。10人ほどで一杯になりそうな小さな湯船から、ザバザバと大量の湯があふれだしていたからだ。

 洗い場は、まさに洪水状態である。
 こんな豪快で、贅沢な湯の使い方をしている温泉は、なかなかないだろう。見ているだけでも、気分が爽快になる。
 甘い硫黄の香りがプーンと漂う湯船につかる。温泉地の名前が、「奴さん(殿様の家来)たちを留めおいたぬるい湯」に由来するように、泉温は38℃とぬるめ。
 一度入ったら、いつまでも浸かっていたくなるやさしい湯である。

 底に敷きつめられたごつごつとした石の間から湧き出す湯は、透明感が抜群で、しばらくすると体中に小さな気泡が付着する。
 湯が新鮮な証拠だ。こんな居心地のいい湯に、毎日浸かれる地元の方がうらやましい。
 あまりの気持ちよさに、1時間ほどつかっていただろうか。

 先に湯からあがって着替えを済ませたおじいさんにふと目を向けると、自分の足で濡れた脱衣所の床をタオルで拭いていた。
 そんな姿を見て、ますます奴留湯温泉が気に入ってしまったのだった。

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