少し前の4月に入って長野から会員の原哲也さんが上京される時に渋谷にある『ラ・ブランシュ』へ行きますというメッセージが来ました。
少し前になりますが、『ラ・ブランシュ』を原さんにおすすめしたのは実は私で、こういうことは忘れたころにあるものです。原さんはビジネスでいらっしゃっているのでお一人なのかなと思い、すぐ手帳を見てスケジュールを確認しましたらちょうど空いていたので、おひとりならぜひ私も便乗させていただきたいというメッセージを送りました。それでご一緒することになりました。
『ラ・ブランシュ』は二十年前くらいからずっと行きたいと思っていたのですが、誘われることもなく、時間が経過してしまいました。四、五年位前に大阪の『ミチノ・ル・トゥールビヨン』の道野正シェフとインタビューでもスペシャリテの話になり、田代シェフの鰯のテリーヌ話ができてきましたが、その時も「鰯とじゃがいものテリーヌ」を食べに行かなければと強く思ったわけですが、実現しませんでした。
その後、そんなところに、熊本の会員の本田シェフが『ラ・ブランシュ』を訪問してFacebookにその料理をアップしているのを発見して、さらに思いは強くなりました。いろいろありましたが、ひょんなことから、念願の『ラ・ブランシュ』を訪問することになりました。
予約時間の18時30分よりも少し早くお店に着くと原さんが着席していました。原さんと雑談をしていると田代和久シェフが席まで軽く挨拶にお見えになりました。その後、サービスの男性にも一声かけて、厨房に入られました。やはり、長く人気のお店は違いますね。
以前、お客様は知らない店では減点法で評価して、知っている店では加点法で評価するという話をしましたが、来店したお客様へのシェフの挨拶はお客様との距離感が縮めて、お客様の店に対する評価法を変えるのではないか思いました。
最近、洋食のおいしさの加点エレメンツの表を作成して、解説なしに『四方よし通信』に挿入して配布いたしましたが、「シェフの来店時の挨拶」も無名のシェフ+5点、有名シェフ+20点と加えたいと思います。
続いては三つあるコースを書いたボードが提示されメニューを選びます。健康上の理由でお酒を飲めないので、フォアグラの料理が入ると説明された一番高いコース(確か16,000円と書いてあったかな)を注文しました。
お料理は「豚肉のリエットと自家製カンパーニュ」が最初に提供されます。
なめらかな口当たりでアセゾネ(味付け)のしっかりしたリエットはおいしいです。パン・ド・カンパーニュがまたおいしいです。田代シェフの著書の「じっくり練り上げたリエット」のページ(P21)の記載によれば、とろりなめらかな中に、味にざらっとしたところがあるというのがこのリエットのイメージだそうで、ミルポワを最小限にして、フードプロセッサーを使わずに、肉を木ベラでほぐしながら手練りで仕上げるのがポイントだそうです。
二つ目のアミューズは玉ねぎのシャーベットと福島の“おいしい”栃おとめです。
食べログのレビューを見ますと玉ねぎのシャーベットは定番のようです。“おいしい”とついて提供される農産品は意味があるようで、この苺は樹上完熟の苺のような感じで味の濃さと甘さが際立っています。
自家製のアーモンドのパンが供せられて、「ヤリイカにズッキーニを詰めた一番古いスペシャリテ」という説明で最初のオードブルが登場します。正式名称は「ヤリイカのクールジェット詰め、トマトソース」です。
ソースでも使われている静岡掛川の“おいしい”トマトは甘うまです。
一番上には根っこがついたほうれん草がまるっとのせてあってそのほうれん草を外してイカを割って食べると説明されました。
ヤリイカとズッキーニの食感の組み合わせがとても良いです。下に敷いてある濃厚なトマトの生っぽいソースがこの料理のポイントのように思えました。本を見ると、トマトのソースは“おいしい”トマトを注文が入ったら3センチ角に切ったトマトを泡が出てくるまで包丁で押しつぶすそうです。ほうれん草の味もしっかりしていて、こちらもソースとあいます。ソーススプーンですくって食べるとスパイシーです。
二つ目のオードブルは、季節の顔「タケノコとフォアグラのソテー、田ゼリ添え、トリュフ風味」でたっぷりの自生した田芹がのっています。
芹の時期は4月中旬で、芹と筍のふたつが出会うタイミングはそんなに長くないのです。トリュフの風味のフォアグラと食感のある筍の相性よく、ワイルドな芹を食べるとなにかとても良いです。芹はフォアグラの脂と相性がよいのでしょう。さらに芹があう印象です。フランソワ・クープランがこの時期来日したら誘ってみたいですね。
田代シェフのこの一皿をわざわざ食べにくるというレビューが結構ありました。春のこの時期のスペシャリテだそうで、これまたすばらしい一品です。
まさにこの時、この瞬間を感じることがとても大切だと実感しました。季節の顔となる料理には繰り返し効果がありその料理への目的来店を促します。ぜひ、季節毎の商品化をしてください。
二度目のパンが提供されて、続いては「三種の蕪のロースト 甘鯛の鱗焼き添え 白蕪のソース」です。
蕪の茎をつけたままローストしていて、葉も一緒に食べてくださいと説明。甘鯛の鱗焼きということで魚料理なのですが、ローストした3種の蕪と蕪のソースで蕪がメインの料理ですね。蕪がとても甘く下にある蕪をおろしたソースがとてもおいしかったです。ゆべし風と説明を受けましたが、どこがそうなのかわからずネットでゆべしを調べてみました。ゆべし(柚餅子)って福島や山形のお菓子なんですね。
ちなみに、田代シェフの本にはP39にこの料理のたぶん原型と思しき「焼きカブのサラダ、トリュフ風味」がのっています。田代シェフにとってエポックメイキング的な料理だそうで、狭山の中さんという生産者がつくるカブとの出会いが、シェフの料理の方向性を変えたとのことです。カブは皮をむかずに葉や茎をつけたままこんがり焼いています。ちなみに、甘鯛はP76に「甘鯛のうろここんがり焼き、キューリソース」が紹介されています。
印象深いカブの後、「イワシとジャガイモの重ね焼き、トリュフ風味、イワシのポタージュ添え」が供せられました。
テリーヌの上にはアンチョビのクリームがのっていて、添えてある鰯のカプチーノがまたおいしいです。相性のよい素材なのでしょうが、なんとも調和のとれた一皿です。すでに、これまでのスペシャリテに圧倒されてしまいましたが、この料理は格別ですね。
ようやく魚料理で、釣りの太刀魚、タケノコのソース つくしと雪の下のベニエ
黒米をつめてカリっと焼いたふわふわの太刀魚のお料理です。ちなみに著書にのっているのは太刀魚のお料理はP92の「タチウオの真っ黒焼き」です。
パンチのある料理が続いてたのでやや記憶喪失になっていますが、とてもおいしかった(はず)。
肉料理は鴨、千代幻豚、川俣軍鶏、松阪牛からのチョイスで鴨のパイを選びました。鴨コンフィをスパイシーに味付けして野菜たっぷり入れてパイ包み焼き、赤ワインソース添えてあるのはマロンのクレープとベニクルリと言う大根。赤いお皿が印象的です。
著書にはP104に「鴨のパイ包み、エキゾチックエピス風味、旬の日本野菜添え」としてのっています。フランスにいた時に、これに似た料理を食べたことがあるそうで、その家のおばあちゃんが作ってくれたもので、パイの中にシナモンやレーズンが入っていて「お菓子みたいだな」と思ったのを、突然思い出して、無性に作ってみたくなったそうです。
デザートもブランマンジェ、パルフェ、プリン、あと一品あったように記憶していますが、選びます。苦いカラメルのアイスクリームを添えたブランマンジェと・・・の説明を聞いて、ブランマンジェ一択かなと。なのであとは何だったか記憶はありません。
原さんは川俣軍鶏のプリンをチョイスしました。
苦いというか甘くないカラメルがプランマンジェの甘さと相性良くおいしかったです。スパイシーチョコレートのケーキ、八角グラニテ、ポルチーニのクレームブリュレ小菓子も個性があり、おいしいですね。
最後にハーブティ。
会計を済ませて帰路につくお客様を丁寧に見送るシェフの姿がとても印象的でした。料理の味も大切だが、それ以上に大切なものがあると田代シェフが言っているようでした。
一年に一、二度、もっと早く来ておけばよかったと思うレストランに出会いますが、『ラ・ブランシュ』もまさにそういうレストランでした。
帰宅して早速、Amazonでシェフの著書も購入しました。
次は初夏にまた来てみたいと思っています。
ラ・ブランシュ
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