経営者の小さな振る舞いや、マネジメント層の習慣が、組織の雰囲気や成果に大きな影響を与えています。今回はその影響の一つ、社員の名前をどう呼ぶのか、「ネームコーリング」効果についてウェルビーイング経営の観点から考えてみましょう。
ネームコーリングとは
名前とは、個人に与えられた大切なものです。名前を呼ばれることは、自己の存在が認められていることを感じる瞬間でもあります。
心理学では、自分の名前を呼ばれると、相手が自分のことを大事にしていると感じ、相手に好意を抱く、というデータがあります。このように、名前を呼ぶことで人間関係が良くなることを、ネームコーリング効果と呼びます。
つまり、相手の名前を呼んで声をかけると、相手には「自分が大切にされている」という感覚が生まれるのです。とても小さなことですが、むしろ、こうした小さな点の積み重ねが、人間関係を作り出している、これは重要な事実です。
名前を呼ばれないことは存在を否定されること
名前の重要性を象徴するケースに、刑務所やナチスのアウシュビッツ収容所の例があります。収容された人たちは、名前ではなく番号で管理されます。これは、個人としての存在が否定されるということでもあります。
アウシュビッツから奇跡的に生還した精神科医ビクトール・フランクルがベストセラー著書『夜と霧』で述べたように、名前を奪われることはその人のアイデンティティを否定されることと同じことです。彼は、収容所でつらかったことのひとつに名前を奪われたことをあげ、個人としての尊重が失われることに、大きな恐怖を感じたと切実に語っています。それほどまでに、名前とは、個人の存在を証明する大きな力があるのです。
みなさんは、どれくらい相手の名前を大切なものとして扱っているでしょうか。
名前を呼ぶ効果が表れる場面とは
さて、組織において相手の名前を呼ぶとは、具体的にどういう場面でしょうか。それは、特別な場面に限ったことではありません。
例えば
「おはよう」
と言うのと
「おはよう、山田さん」
と呼びかけるのでは、相手に与える効果が異なります。後者のほうが、相手の心に響くでしょう。
「お疲れ様、今日のプレゼンよかったよ」
「お疲れ様、佐藤さん、今日のプレゼンよかったよ」
この二つでも、後者の方が、佐藤さんの印象に残り、これからももっと頑張ろうという貢献意欲も高まるはずです。
ネームコーリングの組織全体への効果
そして、名前を呼んで挨拶をしたり、承認を伝えている上司の存在は、組織全体に影響を与えていきます。上記のケースでも、名前を呼んでいる後者のかかわりのほうが、相手を大事にする様子、部下のプレゼンの様子をしっかり見たうえで相手を尊重して褒めている様子が伝わってきます。
つまり、名前を呼ばれた本人だけでなく、その様子を見聞きする他のメンバーに対しても、ネームコーリングの良い効果は広がっていくのです。
関係性とは、小さなやりとりの積み重ねですから、こうした小さな違いが社員のエンゲージメントを高め、組織全体の活性化につながるのです。
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