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第89話 打開策は、ふとした発想から

北村森の「今月のヒット商品」

週の半分を全国への出張ですごす私ですが、各地での仕事の合い間も気が抜けません。いや、しんどいという話ではなくて、これはと感じる地域産品に出逢えるチャンスを見逃したくない、と必死です。そこには当然、楽しさもあります。

で、先月訪れた沖縄の石垣島で、こんな商品のことを知ることができました。石垣島から東京に戻るまさに直前、島の人とほんの立ち話をしていたなかで、情報を得たのでした。


島こしょうです。いわゆる黒こしょうとは別物で、ピパーツと呼ばれ、正式な名称はヒハツモドキというのだそうです。八重山そばの店に行くと、この香辛料を微粉末にした小瓶がほぼ例外なく卓上に用意されていますから、その存在をご存知の人も少なくないでしょう。


ぴりっとした辛さだけでなく、シナモンにも似た甘さを同時に感じるところが特徴であり、確かに八重山そばの奥ゆかしい旨みを引き立ててくれます。


島こしょうというだけなら、すでにお土産品も多数あって、たやすく購入できるのですが、上の画像の商品はちょっと違います。


まず中身は粗い粒状のままの島こしょうです。そして容器はペッパーミル。つまり、使うたびにみずから挽いて、料理にふりかけてください、という趣向になっています。商品名は「がりがり粗挽きピパーツ」、島の食品加工会社である、なりーの野菜屋さんが昨年(2023年)秋に発売したもので、値段は1540円。


ちょっと立派な値段ですよね。でもためらわずに購入しました。この手があったか、と思わせたからです。


帰京してから自宅で使ってみて実感したのですが、なにも八重山そばだけに合うというものではない。鶏の水炊きにもよかったし、塩焼きそばをつくってふりかけたら、味わいが明らかに深まりました。


これは面白いと思い、商品を企画した担当者に連絡をとってみました。


まず、島こしょうとペッパーミルの合わせ技という商品は、これまで存在しなかったと聞きました。ではなぜ?


それはもう単純な話で、「挽きたてがいちばんおいしいから」と…。でも、そこを思い切って商品化の実行に移すかどうかが分岐点ですね。よくつくったと思います。担当者に聞くと、乾燥までの工程を固めるまでに100回近い見直しをかけたとのことです。1年間の長期保存に耐えるようにするためだったそう。


この商品、発売から1年ほどですが、すでにリピート購入する客を掴んでいるらしい。一般消費者だけでなく、フランス料理や中国料理に携わるプロの料理人からの定期購入も獲得しているともいいます。


担当者によると、この新商品開発にはひとつの背景もあったようです。石垣市はこの島こしょうの普及促進に10年ほど取り組んできましたが、なかなかうまくとこが運んでいなかった。そこで市は、島の住民に島こしょうの苗を無償提供して栽培を広く担ってもらおうと動いた。で、今回のこの商品の担当者は、島民からは島こしょうの実を1kg1500円で買い取ってそれを商品化に生かします、と告知しました。


いい決断だったと思います。島民に励みが出ますし、それを使って新商品を送り出すことで、島こしょうの存在を島の外にも伝えられます。そしてただ単に島こしょうを商品にするのではなくて、その魅力をより強く訴求する方策として、ペッパーミルとの組み合わせとした、という話です。ちゃんとそこには明確な理由があったのですね。


年内には、島内の全小学校に苗の無料提供を進めるそうで、そうなれば、子どもたちが育てた島こしょうが石垣島を越えて多くの人の口に届く可能性もさらに生まれます。その買い取りで支払われるお金は、それぞれの学校の部活運営費などに充てられる、という流れでもあるそう。


地域産品をどう育成するか、その答えのひとつを見た気がしました。これだから出張は楽しい。期せずして大きな学びにもなりました。

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