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第83話 「ゴール」は思い切って掲げる!

北村森の「今月のヒット商品」

もう何年も前のことですが、大手自動車メーカーのプロジェクトリーダーの言葉にうなった記憶があります。

そのリーダーは社運をかけた大型プロジェクトを率いる立場。競争の激しいEV(電気自動車)を単に開発するという話ではなく、EVなどの次世代モビリティが社会にどう実装されるべきか、その具体像を構築するという、聞くからに困難をきわめるプロジェクトをものにしないといけない。

で、このリーダーは真っ先に何をしたか。「短い動画を制作した」というのでした。どういうことか。このプロジェクトの目指す最終形というのは、関わる人によって描くイメージは異なる可能性が高いですし、それ以前に、イメージすら湧かないかもしれませんね。いや、どこから手をつけていいかもわからないという人も多そうです。

それで、リーダーは「関係者が迷った場面で、これを観ればゴールを想起できる」そのための動画を最初に制作したらしい。誰もが「ああ、ここを目指せばいいんだ」と迷いを断ち切って前に進めるような…。つまり、目標をたちどころに共有できる“旗”を掲げたという話であるわけです。

この経緯を聞いて、私がいまも大事にしているのは、「プロジェクトに必要なのは、達成可能性を探るよりも前にまず、明確なゴールを共有できるよう動くことなのだ」と理解しました。たとえ、そのゴールが達成困難なものであったとしても、周囲の関係者へ明確に伝わるものであればあるほど、進むべき道も方策も見えてくるからですね。

 

ここからが今回の本題です。

 


先月(2024年)5月17日と18日の金曜土曜、東京・大手町で「Future Beer Garden~上勝町×TOKYO TORCH~」と名づけた屋外イベントが催されました。主催は徳島県の上勝町です。地元産のクラフトビールや焼き菓子などを楽しめるブースが並び、初日だけで6000人ほどが来場したと聞きました。

単なる初夏のビアフェスか。違います。上勝町は、日本で初めて「ゼロ・ウェイスト(ごみゼロ)」を目指すと宣言した山間の町です。町に暮らす人すべてがごみステーションにごみを携え、細かく分別をします。そしてそれらの大半はリサイクルへと向かいます。宣言は2003年のことでした。いまもこの取り組みは続いています。


ゼロ・ウェイストなんて本当に実現できるのか。なぜまた、そんな大それた目標を掲げたのか。そこにはもちろん理由がありました。町の深刻な過疎化だけでなく、ごみの不法投棄や焼却による環境汚染が問題となり、このままではまちが立ち行かなくなるという危機感から、思い切ったゴールを定め、上勝町の存在を内外にアピールしようという狙いがそこにありました。

 


2015年には、上勝町の取り組みのシンボル的な存在となるクラフトビール醸造所の「RISE&WIN」が開業しています。上の画像をご覧いただくと分かると思いますが、大きな窓を構成しているのは、町で出た廃材(取り壊した家屋などの窓枠の再利用)です。そして、繰り返し使えるガラスボトルを活用してのビール量り売り、さらにはビール醸造の過程で生まれるモルトかすを液体肥料に変え、それを使って麦を育て、その麦でビールをつくるという取り組みにも着手しました。

ただ単に、サステナブルな取り組みを志向したビール醸造所というのではなく、ビールの味そのものを磨く姿勢を貫いたRISE&WINは、いくつものアワードを受賞するほどとなり、ビール愛好家の評価も広く獲得し、このビール醸造所の存在が上勝町の取り組みを伝えるための大きな武器となりました。今回の東京・大手町でのイベントで中心をなしていたブースはもちろんこのRISE&WINでした。

 


2020年には、上勝町のごみステーションがリニューアルされ、「上勝町・ゼロウェイストセンター『WHY』」という名の、体験型ホテル併設の施設がオープンします。上勝町の取り組みを伝える施設が、またひとつ増えたという話ですね。ここには連日、県外からの視察者が絶えないとも聞きます。

5月のイベントを取り仕切っていたRISE&WINの代表に改めて話を聞きました。今回のイベントは「上勝町のことを知ってもらうことが目的」といいます。大都市圏の人たちが上勝町(と、その取り組み)に関心を寄せてくれることが、もう15年を超えて奮闘している上勝町の住民にさらなる勇気をもたらし、またそれ以上に、ごみの問題をより広く深く理解してもらえる可能性を高めるということです。

 

で、ここからです。RISE&WINの代表の言葉に、私は深く納得できました。

 

「いま上勝町では、ごみのリサイクル率は80%以上で推移していいます。リサイクル100%には至っていません。でも、もし最初に『ごみゼロ』ではなく『ごみ半減』といった消極的な宣言に留まっていたら、80%は達成できなかったはず」

ああ、確かに…。ゴールを明快に掲げたからこそ、ここまでこられたのですね。「ごみゼロ」という、誰もが目標とその意味をはっきりイメージできる宣言だったからこそ、上勝町はそのゴールに向けて躊躇なく進ことができた。

これは、冒頭に触れた自動車メーカーのプロジェクトリーダーの話に通じると私は思います。達成可能性ばかりを気になると、プロジェクトは逆に空転しかねない。まずはゴールの共有を徹底する。自動車メーカーの場合、動画というビジュアルを使って到達点のイメージを可視化しました。上勝町の場合は端的な言葉ですね。

ゴールの設定はあらゆる事業で不可欠なものですが、実はしっかりとした共有が必ずしも図れていない事例が思いのほか多い、というのが私の印象です。いま一度、ここを大事にすると活路が見えてくるかもしれません。

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