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第137回「小売りDXで飛躍の時を迎える」サイバーリンクス

深読み企業分析

 最近はあらゆる分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)が大流行りである。このところはさらにそこにAIまでが加わっている。もちろん、導入企業側にすれば、DXの活用の巧拙で、まさに業界地図さえ塗り替えられかねないため、手を抜くわけには行かないものである。一方で、DXサービスを提供する側でもビジネスチャンスと考え注力するものの、様々な業界において陣取り合戦が激しく、多くの企業が鎬を削ることになる。

 そんな中にあって、DXという言葉が独り歩きする前からいわばDXサービスを提供してきたことで、すでに当該業界に盤石な基盤を築き、いよいよ本格化するDX時代に入り飛躍の時を迎えた企業がある。それが、小売りDX、自治体DXで躍進するサイバーリンクスである。

 同社では今から20年ほど前に売上高300億円以下の食品スーパー向けに基幹業務クラウドサービスを開始している。まだ、世の中にクラウドという言葉も浸透していなかった時代である。その後、2007年には卸売業向けのクラウドEDIサービスの提供も開始している。

 それまで小売業が使うような基幹業務システムは当然、メインフレームで自社用にシステムを組んでもらうために数十億円が必要であったと言われる。しかし、年商300億円以下の企業ではとてもそんな費用は出せない。そこで、加工食品卸売業からのアドバイスもあり、中小食品スーパー向けにクラウド型の基幹業務システムの開発に取り組んだものである。

 しかも、カスタマイズしたシステムはやがて陳腐化するため、10-20年もすると再びシステムを更新せねばならず、巨額な資金が必要となる。一方、クラウドであれば、顧客サイドに更新の必要性はなく、毎月の使用料で継続的に利用できる。例えば消費税率変更などへの対応もすべて供給側が対応するため、顧客サイドの負担が小さなもので済むのである。しかも、開発側にとってはすべての顧客に共通であるので1社あたりの負担額は極めて安価なものとなる。

 ただし、クラウド型のシステムを供給側から見れば、キャッシュフロー面、業績面で初期段階では厳しいものがある。つまり、パッケージで販売してしまえば、その時点でどんと一度に売上が立つ。しかし、クラウドのサブスク型は、その一度に立つべき売上が10年、20年と先送りされるわけである。しかも、カスタマイズしない分、1社専用のシステムより10年分をもらってもさらに安価なものとなる。もちろん、利点もある。それは、パッケージであれば、1社ごとに開発コストがかかるが、クラウド型であれば多くの会社分を一括で開発できる。

 これを時系列でみた場合、パッケージ型は最初に売上が計上されるが、売上自体が年によってばらつく可能性がある。一方で、クラウド型は売上が積み上がるには時間がかかるが、顧客満足度が高ければ、継続顧客が多くなり毎期コンスタントな売上が計上され、そこに新規顧客分が上乗せになることで、コンスタントな成長が期待される。

 ただし、新規に新たな機能を付加したり、さらに顧客層を拡大するために大規模企業対応などによって、数年に1度ほどは大きな投資を行うことになる。その時点では一旦、償却費が増えることで業績が停滞することはある。特に当該ビジネスのスタートの初期段階で黒字化までは時間がかかる。しかし、一旦、黒字化が達成されると、新たな大規模開発がない限りは、限界利益率自体が高水準であることから、売上増以上に利益増が大きなものとなる。

 図は同社のセグメントごとの経常利益推移を示しているが、2020年12月期には3億円ほどに過ぎなかった流通クラウドの経常利益はその後急成長を遂げた。なお、ここまで述べてきた食品スーパー向け基幹業務システムや卸売業向けのクラウドEDIサービスをひっくるめて流通クラウドと区分している。
2005年にスタートした同ビジネスであるが、2019年度に対象顧客を売上高1,000億円クラスまで広げるバージョンアップの開発が完了し、2020年12月期には一旦経常利益が3億円まで落ち込むが、その後急拡大している。さらに2024年12月期には1,000億円クラス対応のシステムのスピード化の開発が終了して、償却費が発生し一旦減益に落ち込んだ。しかし、2025年12月期には償却増も一巡して、当面、利益面での高成長が期待できるところである。

有賀の眼
 DXの分野はまさに陣取り合戦の最中ではあるが、すでに同社は全国の食品スーパーの約30%を顧客としている。しかも、クラウドで基幹業務システムを提供しているのは同社のみで、極めて安価な価格でのサービス提供が可能である。

 ただし、DXも当然ではあるが、様々な技術が必要であり、ネットの世界はM&Aが日常茶飯事で、同社もその分野における様々な企業をM&Aによって取り込んできた。2013年に卸売業向けサービス拡大のためにインターマインドを子会社化し、食品卸売業、食品小売業向けサービス充実のために、2014年にアイコンセプト、エニタイムウエアを吸収合併した。また、2015年にも流通業向けクラウドサービス拡充を狙いニュートラルを吸収合併している。

 2016年には情報交換プラットフォーム(C2Platform)構築に必要な技術を保有するカラカルマインドのソフトウェア開発事業を譲受した。さらに同年、インターネットEDIシステムの運用管理を行うクラウドランドを子会社化した。

 また、同社では基幹業務システムを供給していることから、顧客である小売業が同社の供給していない様々なシステムを他社と契約すると、同社の基幹業務システムと接続する必要が生じる。そのことを通じて、当該サービスの業界内の競争力を把握できることで、その分野のトップ企業に買収を働きかける。そのようにして、新しいサービスをM&Aで取り込むことで、今では基幹業務システム以外にも小売業の棚割り管理システムや自動発注システムなど様々なサービスを充実させている。

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