会社で社会保険料の納付が遅れると、日本年金機構から督促があり、来所通知書が届きます。次に滞納状態が続くと財産調査をするという通知が届きます。この直前直後に多くの経営者が資金繰表や決算書を持参して年金事務所を訪れますが、年金事務所は話は聞いてくれるものの、個々の事情を考慮してはくれません。つまり、あなたの会社の資金繰表の持参など無意味なのです。
この段階で、一番無難に解決する方法は銀行融資を受けて解決することですが、すでに取引銀行に年金事務所から下記のような預金の照会書が届いていて社会保険料滞納の事実が知られていることも多く、新規融資の障害になります。社会保険料の滞納の事情は銀行融資にとって不利な影響を及ぼすのです。
しかもこのような預貯金照会はpipitLINQ(注1)という名称で近年電子化され、税務署や地方自治体はもちろんのこと、日本年金機構までもがそれを利用し始めるようになっています。
pipitLINQによって迅速に会社の預貯金の動きを調べることができ、効率的な差押えができるようになったわけです。
銀行融資がうけられず、社会保険料の納付の遅れが恒常化したり、滞納が続いた場合の現実的な解決方法としては分割納付、納付猶予となるのですが、年金事務所はそれらの手続において分割納付計画書、納付誓約書を要求してきます。しかも、猶予を受ける保険料額が百万円を超えていれば、詳細にわたる財産目録、収支明細書の提出が義務づけられます(注2)。
仮にこれらの手続をへて一時的に解決したとしてもその後に再び滞納が始まればそれらの資料をもとに資産に対する差押えが行われます。
融資を受けている銀行に会社名義の定期預金などがあれば、預金は使えなくなり、銀行からは預金の差押えを理由に期限の利益喪失が宣言され、融資金の全額一括返済を迫られるわけです。
そもそも、売上の減少や、利益の減少、売掛金の焦げ付きなどの理由によって社会保険料が納付できなくなったり、その納付が遅れたりしているわけですが、その原因にちゃんと向き合うことなく小手先で解決を試みようとするからこのような状態になるわけです。
では、小手先での解決でない方法などあるのかというと、答えは決算申告書に隠れています。
じつは、経営破綻・倒産する会社のほとんどが破綻に至るまでの過程で同じような経過をたどっています。
銀行融資の返済ができなくなりリスケで対応するも、消費税の納付ができなくなり、同時に社会保険料も滞納しだすわけです。そして末期には、資金繰りがめちゃくちゃになっているのに経営者はその事実を冷静にみることができなくなります。
経営破綻に近づくほど赤字は増えていくので利益によって納付額が増える税目は滞納することもないはずですが、そんな税目さえ滞納すれば、もうすでにその会社は死んでいるとさえ言えます。
そして、経営改善はほとんどが絵に描いた餅になり、最終的に銀行からも見放されます。
だから、そうなる前に早めに根本的な解決を行うことが必要なのです。
「でも、どうやって?」と思うでしょう。
たとえば、社会保険料が納付できないのであれば、適法な方法で人件費・給与を圧縮するのです。それによって社員もやめていくでしょうが、その仕事を外注にまわせば給与だけでなく、会社が負担している社会保険料・法定福利費が減ります。さらに仕事を外注に回すことによって固定費と消費税の負担は減ります。人件費は消費税の仕入税額控除の対象にならないのですから。
ただ、そうはいってもこのようなことを行うと有能な社員ほど先に退職してしまうので差別化を行う必要があります。それでも、銀行借入の金額が売上や利益、所有資産に比べて大きすぎる場合はあきらめるしかないと思われます。
ここまでお読みいただいて、そんなやり方は非現実的だと思われるかもしれません。しかし、今そこで直面している危機を回避するには、これほどのドラスティックなやりかたしか残されていないのです。
注1:pipitLINQ
2019年から始まった預貯金等照会業務のデジタル化サービス「pipitLINQ」は、
税務署・地方自治体・国民年金機構の徴税部署が、納付者・滞納者の預貯金を書面照会でなく、ネットワークをつうじてシステム上で調べることができるようにしたものです。
従来は照会書などの書面で金融機関に回答を求めていましたが、これにより該当者の預貯金の情報が迅速に得られるようになったわけです。
注2:
厚生年金保険料等の納付の猶予(日本年金機構HP)
厚生年金保険料等の換価の猶予(日本年金機構HP)
健康保険、厚生年金保険等の保険料等の的確な滞納整理事務の徹底等について〔健康保険法〕
平成19年8月13日(庁保険発第0813001号:地方社会保険事務局長あて社会保険庁運営部医療保険課長通知)