第5回コラムからは、3回シリーズで、会社が置かれている経営状況別の全員営業の活用法をお伝えします。まずは、変化が最も必要とされる業績が不振な会社からです。
私が、過去関わってきた数百社の中小企業においては、単年度で売上が10%下がった程度では、会社が経営や営業のやり方を大きく変えるには至っていませんでした。
大概の場合、社長(あるいは経営陣)が、営業部門へ叱咤激励し、今まで以上に業績数字を上げることを意識付けることで対応しようとします。
その結果、業績不振が浅い段階にある会社は、翌年度には業績が回復することがあります。しかし、深い段階にまで進んでいる会社は、現場が今まで以上にがんばったとしても、翌年度も業績が下降し続けます。
浅い段階にある会社には、業績不振といっても、以下のような好転材料があります。
1.業界の市場そのものが広がっている
2.他社より明らかに強い商品が1つ以上ある
3.成長し続けているお客様と複数取引している
4.大口の取引先の都合で、一部の取引が途切れただけである・・・
それと真逆にあるのが、深い段階にある会社です。また、それに加えて、なぜ業績不振になったかの原因そのものを、社長も営業現場も把握できていない場合が往々にしてあります。
原因がわからなければ、効果的な打ち手についても見当がつかないのは当然で、ひたすら叱咤激励を繰り返すしかなくなります。
そうこうするうちに、営業会議のどこかで、営業現場から業績不振の原因として「大手企業より営業力が少ない≒営業マンの人数の不足」が話に上がってきます。
しかし、これは、中小企業の業績不振の理由としては、論点がズレるどころか最悪です。
仮に、営業マンの数を2~3人増やして、業績を改善しようとしたところで、自分の会社を見れば、営業マンの人数が仮に2倍になったにしても、競合する大企業と比較すれば、もとは10倍差のあった人数が、5倍になっただけで、改善はしても営業の競争力にはつながらないからです。
規模や人数の点で、大企業に伍して競争しようとするのは、ただでさえ経営条件でハンデのある中小企業が、わざわざ大企業と同じ土俵で戦って勝とうとする暴挙とすらいえる やり方なのです。
しかし、経営者からすれば、散々、営業現場を叱咤激励して、自分なりに考えたことを幾つも試したが、業績不振の状況が一向に改善されないため、「現場が言っているし、それでヤル気と、もしや業績が変わっていくなら…」と藁(わら)をもつかむ気持ちで、営業マンの増員に踏みきります。
増員の結果、短期間で投入した経費以上の売上と利益が一気に増えればいいのですが、そうはならないのが大半なので、そうなる前の段階までなら、まだやりくりすれば、新しい手を打てる経営資源が多少なりともあったものが、「金」と「時間」の資源の余力が一気になくなります。
あるいは、業種によっては、営業現場の意見が、営業マンの人数に向かわない場合、「既存商品≒競争力がなくなった」へと向かう場合もあります。この場合は、正解の妙手という場合もあるのですが、確率的には、既存商品でさえ、売ることができない営業が、「新商品、新業界」に営業力を発揮して、短期間のうちに売れるようになるかというと、期待薄ですし、会社にすれば、最初に結構な仕入れ資金が必要となります。
経営が2期以上連続して厳しくなった場合、経営者は、「人、物、金、情報、時間」の5つの経営資源の中で、まず「金」に注意が向き、次に、それを生んでいる「人≒営業マン」へと向かい、時に「物≒新商品・新業界」へと向かいます。
しかし、会社の経営資源には、『人=営業部門以外の人』も存在しています。 「物≒新商品・新業界」だけでなく、『物≒既存商品の再定義』と先入観を外して考えれば、新たな打ち手が見えてくることが多いものです。
新しい経営の打ち手といっても、何も新しく営業マンを増やしたり、商品を広げることだとは限らないのです。
それどころか、業績不振という、ただでさえ経営が厳しい会社の場合、いたずらに最初から資金を投入して起死回生の一手にかけるよりも、打つ手が最初のうちは当たらないことがある場合も考慮して、2の矢・3の矢と打てる資金と時間を確保するためにも、現有戦力を最大限活用する手法を模索することこそが肝要です。
営業マンの人数を増やすのは、どういう事をやればお客様が増えるか、業績が好転するかを多少なりとも把握してからで、決して遅くはないですし、むしろ、それからの方が、確実に営業マンの増加と会社業績が正比例する好循環へと向かいます。
誤解していただきたくないのは、営業を強化するために、営業マンを増やす打ち手そのものが間違っている訳ではないということです。ただ、会社が置かれている経営の状況によっては、打ち手の順番が違うだけで、得られる結果が全く違ってくるということなのです。
次回は、今回の問題提起をもとに、経営が厳しい会社が、どうすれば、現有戦力を最大限活用できるかのポイントと始めの一歩についてお伝えします。