日本経済大学教授後藤俊夫氏によると200年以上継続している長寿企業のほとんどがファミリービジネスで、日本には3937社ある。なんと世界の44.6%にあたるそうだ。
100年以上を含めれば52000社にもなり、こうした老舗企業はまさに日本が世界に誇る貴重な財産で、「老舗の世界遺産登録を!」と後藤氏は呼びかける。老舗企業を活用することで地域活性化につなげようとするものだ。
日本の場合は「家」の継承が非常に大切にされ、そのための養子制度がファミリー企業の存続に大いに貢献したと思われる。200年に及ぶ江戸時代の安定した政権、家訓などを通しての価値観の継承、そして奉公人に対する教育制度も貢献した。
ところが私が出席した海外のファミリービジネスオーナー会議には、長寿企業大国である日本からの出席者がほとんどなかった。またファミリービジネスの研究において、当の日本でむしろ老立ち遅れているとことは不思議といえば不思議な話である。
ファミリービジネスの長所としては「信用・ブランドを大切にする、従業員や地域との密接な関係、長期のビジョンにたてる、社風の徹底」などがあげられ、これは国を問わない。しかし、ことファミリーガバナンスに関しては日本は立ち遅れているのではないだろうか。
世界のファミリービジネス会議に出席すると、このファミリーガバナンスが講演や討論の主要テーマとして取り上げられ、ファミリー総会、ファミリー・カウンシル(理事会)、家族協定などを巡って議論が展開される。しかし、こうした話題は日本ではあまり聞かれないし、実際それを取り入れている日本のファミリーはごく限られている。
何代と続くファミリーは多くの困難を経験している。ヨーロッパのオーナー達からは「いかに戦争、ナチの侵攻、或いは懲罰的な高税、社会主義政権の国有化」などの動きに耐えてきたかの話を聞く。
我が国のファミリー企業とて種々の自然災害、第二次世界大戦、その後の農地解放、財産税数多のく苦境を乗り越え生きぬいてきているのである。今回の大震災しかりである。忘れてならないのは、彼らは事業のみならず「祖先の想い」も受け継いだからこそ継続できているのである。
石川酒造の当主は毎日日記を書き続けるのが伝統とのことで、それが既に250年続いていており過去のものは全9巻に整本されている。毛筆がペンに代わり現在ではコンピュータを使っているが、一日も欠かされたことはなく、現当主の石川太郎氏はそれが商いの、そして生活の指針になっていると語った。
オーストリアのテキスタイルの名門バックハウゼン家の場合はナチとソ連による相次ぐ侵攻で工場は破壊され、従業員も大方死んでしまった。しかしいち早く疎開させておいたデザイン集を始めとする種々の家伝の文書が無事だった。
「祖父の日記に克明に記された過去、伝統を残す責任と喜びが自分にとってエネルギーとなった」と、現在の当主ラインハルト・バックハウゼン氏から話を聞いた。
榊原節子