コーヒーを飲むなら喫茶店しかなかった日本に、今までにない価値を持ち込んだ企業にスターバックスがあります。
同社は、日本へ1996年(平成8年)1号店を銀座松屋通り店にオープンし、今や912店舗(内ライセンス店舗34)展開するに至っています。
米国生まれのスターバックスがここまで成長できた理由は、喫茶店の後に生まれたドトールなどのファーストフード型コーヒーショップとは違い、コーヒーを飲むことをライフスタイル(生き方)として価値提案し、各店舗が高いレベルでバランスのとれた品質とサービスを提供することで、新たにカフェ(喫茶店よりおしゃれな空間を設えた)市場なるものを創造したからです。
スターバックスの強さは、一言でいうと、
経営理念「感動体験を提供して、人々の日常に潤いを与える」を実現するために、日本で今まで存在しなかったコンセプト(コーヒーを飲む空間)にこだわり、現場が向かうべきベクトルを仕組み(利益を生み出す仕組み)にしたことです。
同社がこだわるコンセプト<職場でも家庭でもない日常に潤いを与えるコーヒーを飲む
第三の空間をつくりあげること>は、経営理念を具体化する会社の使命(ミッションステートメント)に沿って現場に落とし込まれ、それは企業風土を軸とした取り組みによって、<クラウド・賑わい>を演出することで顧客を誘引することになっているのです。
1~賑わい~
スターバックスは、今まで日本に存在しなかった第三のコーヒーを飲む空間(職場でも家庭でもない空間)を通して、<経営理念>「感動体験を提供して、人々の日常に潤いを与える」を実現するために、50名以上の社員が3ヶ月以上かけてつくり上げたミッションステートメント(会社の使命)をベースに、現場での~賑わい~6つ<・変化・非日常・やる気・職人・こだわり・活動>を次のように演出し、企業風土を売上(又はコストダウン)に結び付けています。
スターバックスの使命1・
会社として成長しながらも主義・信条において妥協せず、世界最高級のコーヒーを供給する
①メニュー表示で賑わい<変化>演出
*世界選りすぐりのコーヒー産地(ルワンダ、スマトラ、ベロナなど)を独自商品でシーズンごとに入れ替え変化をPR
→選りすぐりコーヒー訴求で高価格設定を可能にし客単価アップ
②コーヒー豆陳列で賑わい<非日常>演出
*世界に分布する20種類ものコーヒー豆を会社ロゴパッケージ(ここしかない)で陳列し、店内で世界の味を擬似体験
→豊富なコーヒー豆陳列で店頭販売の売上アップ
スターバックスの使命2・
お互いに尊敬と威厳をもって接し、働きやすい環境をつくる。
スターバックスの使命3・
事業運営の上で不可欠な要素として多様性を受け入れる
スターバックスの使命4・
将来の繁栄には利益性が不可欠であることを認識する。
③呼び名で社内に賑わい<やる気>演出
*店内で社員同士(アルバイトを含めた)が日々パートナー(共同経営者のこと=ストックオプション付与)と呼び合うことで、互いに尊敬し合い、違いを認め、会社(お店)の全員が一丸となって利益志向となる
→コーヒー以外の関連(甘いケーキやサンドイッチや音楽CDなど)販売や一人2役(社員・経営者)の役割で売上アップとコストダウン
スターバックスの使命5・
コーヒーの調達や焙煎、新鮮なコーヒーの販売において、常に最高級のレベルを目指す。
④呼び名で店内に賑わい<職人>演出
*アルバイトを含めた全ての社員を「バリスタ」(コーヒー抽出技師)と呼び、全員がエスプレッソ(蒸気で落とすコーヒー)マシーンを扱うことでプロ意識を持つ
→目の前の出来立て(マシーンが奏でる蒸気の音)感PRで客数アップ
スターバックスの使命6・
顧客が心から満足するサービスを常に提供する。
⑤呼び名で顧客に賑わい<こだわり>演出
*「バリスタ」(コーヒー抽出技師)と呼ばれる社員(職人)全員がレジ(お金の授受)にも必ず入り、日々の研修で学んだ最高級のこだわりコーヒーの知識を、顧客目線に応じてフィードバック
→商品知識による情報提供でもう一品セールスと一人2役(社員・レジ)でコストダウン
スターバックスの使命7・
地域社会や環境保護に積極的に貢献する。
⑥社会貢献で賑わい<活動>演出
*毎月フェアートレード(生産者から公正な値段で買い取る貿易)コーヒーの日設定と店舗の3R<リデュース(ごみを減らす)・・マイカップ持参割引、リユース(再利用)・・コーヒー豆袋持参ポイント還元、リサイクル(再資源化)・・古紙再生紙資材備品>の徹底・・
→フェアートレード(利益だけを追求していない商取引)と環境保護の活動PRで地域に存在する価値あるお店(会社)ブランド構築で地元顧客の支持率アップ
創業者のハワード・シュルツの右腕とも言われるハワード・ビーハー氏は、次のように語っています。
「われわれはコーヒーを売るために商売をしているのではない。
人々を喜ばせたいと思い、その手段としてコーヒーを扱っているにすぎない。」
スターバックスがオンリーワンになれたのは、人々を喜ばせるために、最高級のコーヒーを提供したからではなく、人々の日常に潤いを与えるために、今までにない“第三の空間”を提供することを常に現場で実践しているからです。
経営理念(「感動体験を提供して、人々の日常に潤いを与える」)実現を目指すスターバックスは、人・本物・社会にこだわる企業風土を、先述の“賑わい”という切り口6つで7つの使命に沿って戦術化し、社員(アルバイトも含む)の満足度を高め、社内からブランドを構築したのですが、その推進力となったのは、第三の空間”という共通言語で全社員がベクトルをそろえ、それが売上(又はコストダウン)にリンクする仕組みがあったからなのです。
清水ひろゆき