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第196回 株式市場を揺るがした「AIの脅威」

社長のメシの種 4.0

 2024〜2025年の米株式市場は、AI関連銘柄が牽引する形で力強く上昇した。
 しかし2026年に入ると「巨大AIデータセンターへの過剰投資」を懸念する声が高まり、マイクロソフトやアマゾンの株価が下落に転じた。
 転機となったのは1月12日で、ChatGPTのOpenAI、GeminiのGoogleと、AI性能を競うスタートアップ企業・Anthropic社(生成AI「Claude」)が、自律型AIエージェントを発表、これは人間の指示を待たずに複雑な業務を自動完結させる、いわば「デジタル社員」とも呼べる存在となる。
 この発表が引き金となり「SaaS(Software as a Service)」と呼ばれるクラウドソフトウェアビジネスへの売りが殺到した。


 SaaSとはソフトウェアを所有するのではなく、利用料を支払ってインターネット上で最新版を使えるサービス形態で、営業・顧客管理のセールスフォース(Salesforce)、画像処理のアドビ(Adobe)、税務・会計のIntuitなどの株価が軒並み急落した。


 投資家は「AIエージェントがあれば、月額費用をかけて専用ソフトを使う必要がなくなる」と考えたようだ。
 さらに2月中旬以降、売りはSaaS企業にとどまらず「AIに代替される」業種全体へと波及した。
 象徴的だったのは2月12日の出来事で、「アルゴリズム・ホールディングス」という無名の小企業が「AIを活用することで、顧客企業が人員を増やすことなく貨物取扱量を300〜400%拡大させた」と発表し、米中小企業の株価指数「ラッセル3000」のトラック運輸指数が1日で6.6%暴落、物流ブローカー大手の株価も15%前後急落した。


 これらの暴落の背景には市場の心理的な変化がある。
 以前はAI関連の見出しが出れば「買い」だったものが、今は「AIに取って代わられるリスクがないか」を考えて「まず売ってから考える」に変わった。
 高値圏にある株価への警戒感を抱えた投資家が、AI一辺倒から分散投資へとシフトしていく過程で起きた必然の反応とも言える。


 一方、米企業の2025年10〜12月期決算は決して悪くなく、S&P500構成企業の75%が市場予測を上回り、利益は平均12%増と概ね堅調だった。
 しかし決算説明会の発言記録を分析すると、経営者たちが「AIによる創造的破壊」に言及する回数が前四半期から倍増しており、数字は好調でも経営者自身はAIの破壊力を意識し始めているようだ。


■ 生産性向上は「これから」


 今回の株価暴落の直接の引き金は、Anthropic社が法務・会計・データ分析などの複雑な業務を自動完結させるAIエージェントを発表したことだが、AIによる本格的な生産性向上はまだこれからだ。


 1990年代のパソコン普及は、当初米オフィスの生産性をすぐには向上させなかった。
 真の生産性革命が起きたのはコンピュータが物流や在庫管理のシステムそのものを変革してからだ。
 インターネットも同様で、企業がネットを最大限に活かすビジネスモデルを構築して初めて、経済成長のエンジンとなった。


 技術が登場してから生産性に反映されるまでには、必ず「使いこなすためのビジネスモデルの再構築」という段階が必要で、AIも例外ではない。
 AIが今後、事務処理の自動化を筆頭に世界の産業に大きな変化をもたらすことは疑いようがないし、ビジネスでも私生活でも人々のAI活用は確実に拡大していく。
 だが、重要なのは「AIを前提としたビジネスモデル」を自ら構築できるかどうかで、AIをツールとして導入するだけでは十分ではない。
 AIが当たり前に存在することを前提に、業務の流れ、人員配置、収益構造そのものを再設計するところまで踏み込んで初めて、競争優位につながる。
 そのために最も重要なのは、経営者自身がAIを日常的に使いこなすことだ。


 現場任せ・専門家任せにせず、経営のトップがAIの可能性と限界を肌感覚で理解することが、次の時代を生き残るための、最初の一歩となる。

======== DATA =========

●Anthropic
https://www.anthropic.com/

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