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戦略・戦術

第九十四話 制度ではなく風土をつくる経営とは

中小企業の「1位づくり」戦略

こんにちは、1位づくり戦略コンサルタント佐藤元相です。
企業経営において「制度を整えること」は重要です。
しかし私は多くの企業を支援する中で、次のような場面を何度も見てきました。

  • 制度は整っている。
  • 評価制度もある。
  • 教育制度もある。

それでも組織がうまく機能しない企業が存在します。

一方で、制度が特別に多いわけではないのに、組織が活き活きと動いている会社もあります。その違いはどこにあるのでしょうか。

その答えを示している企業の一つが、東大阪に本社を置く株式会社ベルです。
株式会社ベルは1992年創業の総合ビルメンテナンス会社で、清掃・環境衛生・設備保守・リフォーム・警備・鳩対策施工・保育・介護など幅広い事業を展開しています。医療機関や公共施設、企業など多様な顧客にサービスを提供しています。

この会社の経営の中心にあるのが、「関わる人すべてを幸せにする」という理念です。
代表取締役社長の奥斗志雄氏は、制度よりも「風土」をつくることを重視して経営を行っています。

奥社長はこう語ります。
「文化は真似できない。だからこそ最大の差別化になる。」

制度は真似できます。
しかし文化は真似できません。
ここに企業経営の本質があると私は感じています。

 

どん底から生まれた経営思想

奥社長の経営哲学は、順風満帆の中で生まれたものではありません。
2000年前後、取引構造の変化によって大口案件が消失しました。
売上は急減し、社員の予定表が空白になるほどの危機に直面します。
その時、奥社長は外部環境を責めるのではなく、自分自身に問いを向けました。

  • 人は何のために生まれてきたのか
  • 経営とは何か
  • 誰を幸せにしたいのか

この問いの中から導かれた結論が次の言葉です。

経営とは、人を幸せにする覚悟である。
理念は順調な時には飾りになりがちです。
しかし試練を通して理念は本物になります。
ベルの理念経営は、この危機から生まれました。

 

価値前提経営

奥社長は経営を次の二つに分けて考えています。

事実前提
売上・利益・規模・組織人数など

価値前提
理念・目的・大切にする価値観

奥社長は次のように説明します。
「数字を目的にすると人が手段になります。
価値を目的にすると数字は結果になります。」

ここで重要なのは順番です。
目的は追求するもの。
目標(数字)は達成するもの。
この順番を守ることが経営の根幹になります。

 

制度ではなく風土

ベルの特徴は「制度が多いこと」ではありません。
制度が風土になっていることです。
例えば次の取り組みがあります。

  • ゴールドスタンダード(行動基準の明文化)
  • 全社員大会による賞賛文化
  • 誕生日祝いと家族参加行事
  • 子どもがいる社員の家庭をサンタになって訪問
  • 入社する社員宅を家庭訪問
  • 退職時の感謝の儀式

これらは制度として存在していますが、目的は制度運用ではありません。
人を大切にする文化をつくることです。
制度は手段であり、目的ではありません。

 

やめられない仕組み

業活動で最も難しいことは継続です。
奥社長は3S活動(整理・整頓・清掃)を例に挙げます。
多くの企業が導入しても、やがて形骸化します。
その原因は「やらされ感」です。

ベルでは次の仕組みを採用しています。

  • 仕事の中に3Sを組み込む
  • ローテーション巡回
  • 勉強 → 実践 → 振り返り
  • 共通定義の徹底

つまり強制ではなく、仕組みによって継続するのです。
やめられない仕組みをつくる
これが文化定着の核心です。

 

文化と事業戦略

文化は抽象論ではありません。
事業戦略と結びついています。
ベルではビルメンテナンス事業において、精神科病院清掃に集中しています。
専門性を高めることで地域ナンバーワンを目指しています。

さらに鳩対策事業では商品開発を行い、メーカー化と加盟店方式を展開しています。
いずれも一点集中の戦略です。
しかしその土台にあるのは、人を大切にする文化です。
文化があるから専門性が育ちます。
専門性があるから差別化が生まれます。

 

最後に

私はランチェスター戦略を軸に次世代へ事業をつなぐ中小企業支援を行っています。
ランチェスター戦略では弱者は

  • 戦う場所を絞る
  • 資源を集中する
  • 差別化する

ことで特定分野1位を目指すことを提言しています。

株式会社ベルの経営は、まさにこの原則を体現しています。
精神科病院清掃という専門領域に集中し、専門性を高めています。
さらに文化によって社員の意識を統一しています。

ここで重要なのは、文化が戦略を支えているという点です。
文化があるから専門性が磨かれる。
専門性があるから単価が上がる。
単価が上がるから良い人材が集まる。

つまり
[文化] → [戦略] → [成長]
という好循環が生まれているのです。

多くの企業は制度を整えようとします。
しかし本当に重要なのは制度ではありません。
風土です
文化は時間がかかります。
だからこそ競争優位になります。

価格は真似できます。
商品も真似できます。
制度も真似できます。
しかし文化は真似できません。
これからの時代、企業の競争力を決めるのは
文化を設計できるかどうかだと私は考えています。

 


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