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第106話 その差こそが、大きな違いに!

北村森の「今月のヒット商品」

いわゆる成熟商品の領域では、競合する企業が商品開発をやり尽くしていますから、もう差異を創出することは不可能に近いのかーー。


私も、そう簡単なことではないとは思っています。しかしながら、まだ手はあるのだということを学んだ事例を、今回はお伝えしていきましょう。



器の話です。それこそ差別化の難しい商品分野ではないかと思います。とりわけ、日常使いするような、私たちの手にも届く価格帯の器である場合にはなおのことでしょう。


岐阜県土岐市というと、美濃焼で知られていますね。国内最大級といっていい陶磁器の産地です。美濃焼は、それこそ毎日の暮らしに寄り添うような商品が多いのが特徴でもあります。


そんな美濃焼を扱う地元の1社に、カネ忠があります。この同社が3月に発売した「each(イーチ)」という新商品に私は直感的に惹かれて購入しました。順を追って説明させてください。


この「each」は耐熱どんぶりなのですが、小鍋のような姿でもあり、ラーメンやうどんのほか、1人鍋にもちょうどいい形状をしています。


コンロの直火でも電子レンジでもオーブンでも調理に使え、そのまま食卓に運んで食べてしまえるというものです。これひとつで調理から食事まで済むわけですから、後片付けもラクにできますね(ただし、IH調理器具と食器洗い乾燥機には対応していないのだけは、購入前に気をつけるべきポイントです)。


「each」には、上の画像のように直径18cmと22・5cmの2種類があって、販売価格はそれぞれ3300円と4400円。同社のサイトで購入できます。カラーバリエーションは3色です。


ただですね、ここまでの話で「それがどうした?」と感じられる人は少なくないかもしれないとは思います。調理できてそのまま食器にもなるような商品って、もうすでに他社からも数多く登場しています。でも、私はそれらの既存商品にはさほど惹かれなかった。カネ忠がこの新商品を「each」と名づけたのは、食事の時間が異なる家族が、料理の温かさを分け合えるように、との願いを込めてのものだったとは聞きますが、私はそのキャッチコピーに振り向いたわけでも正直なかった。個食の時代というのは、いまに始まったわけもありませんし…。


だったら、私はどうしてこの器を直感的に購入してしまったのか。思い切ってカネ忠に連絡をと理、この「each」の開発経緯を尋ねることにしました。恥ずかしい話ですけれど、「私はいったい何に惹かれたのでしょうかね」と聞くことにしました。



カネ忠の代表の話に耳を傾けて、私は、ああそういうことだったのか、と納得しました。どういうことだったのか。


代表はいいます。「確かに既存の耐熱どんぶりは多くありますね。でも、それらの大半は『鍋発想』なのだと思います」。


代表のいう「鍋発想」とは、まずコンロの直火や電子レンジに耐える仕様とするのが開発の起点になっている商品を指しているそう。「鍋発想」から商品化を進めると、素材は厚くなり、産地の土は粗めのものを用いるようになるらしい。


では、「each」はどうだったのか。代表によると、「これは『器発想』です」。


あくまで食器として軽やかで美しいものを目指すのが起点だったといい、そのうえで、きめ細かな土を用いつつも直火に耐える設計を重ねていった結果、「each」は完成したのだそうです。


代表の話を聞くまで、器に不勉強な私は、そうした違いがあることなど思いもしませんでした。商品特性を文字にすれば、既存の多くのものも、この「each」も、「調理してそのまま食べられる器」となりますが、つくり込むうえでの起点もプロセスも異なるものだったのですね。


そして、その差が結果として、私の目に大きく違う商品と映ったのでしょう。シンプルかつ洒脱なデインをしていて、しかも調理までできてしまうというところに…。


日常使いのものだからこそ見た目にもチャーミングであったほうがいい。成熟商品の領域でもまだまだ、光を放つ存在をつくり出せる余地があるのだと感じ入った、そんな話でした。

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