賃金管理研究所 所長 弥富拓海
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1.2018年度の労働経済情勢と賃上げ動向
経済財政諮問会議で安倍首相は「賃上げは、企業に対する社会的要請であり、3%の賃上げが実現するよう期待したい」と話し、経済界に賃上げを具体的に要請しました。同会議は、賃上げ実現に向け予算や税制面などで環境整備を進めるよう提言。2018年度の春闘も引き続き「官製春闘」の性格が色濃く感じられます。
2.経団連:春季労使交渉に臨む経営側のスタンス
経団連は賃上げへの社会的関心が高まっていることから、ベースアップ(ベア)や定期昇給などで3%の賃金引き上げに前向きに取り組むよう会員企業に呼び掛けました。 また政府の「働き方改革」への対応では、残業時間の上限規制で残業代が減少する分について、生産性の向上を前提にベアや賞与、手当で還元することも選択肢に挙げました。
3.連合:2018年春闘に臨む組合側の姿勢
1)月例賃金の引上げ要求
①すべての組合は月例賃金の絶対値にこだわり、賃金引き上げをめざす。基本給を一律に引き上げるベースアップの幅を「2%程度」とし、定期昇給の2%と合わせて4%の賃上げを求める。
②賃金制度が未整備の単組は、構成組織の指導のもと制度確立・整備に向けた取り組みを強化する。
④非正規労働者の賃金については、正社員と均等待遇の観点から改善を求める 。
2)規模間格差の是正(中小の賃上げ要求)
中小組合の平均賃金をベースに、「底上げ・底支え」「格差是正」をはかる観点から、平均賃金水準の2%相当額に賃金カーブ維持分(一年・一歳間差4,500円)を含め、10,500円以上の賃金引き上げを求める。
3)雇用形態間 格差の是正(時給等の引き上げ )
労働条件の改善確認を進め、賃金(時給)の引き上げ(①~③のいずれか)に取り組む。
①「誰もが時給1,000円」の実現に向けた引上げ
② 時給1,000円超の場合は37円を目安に引き上げを要求
③昇給ルールの導入・明確化の取り組みを強化する。
4)男女間賃金格差の是正
①単組は、賃金データにもとづいて男女別・年齢分布を把握し、問題点を点検、改善へ向けた取り組みを進める。
②生活関連手当(福利厚、家族など)の支給における住民票上の「世帯主」要件は 実質的な間接差別にあたるので廃止を求める。また、女性のみに住民票など証明書類提出を求めることは男女雇用機会均等法で禁止とされているため、見直しを行う。
5)企業内最低賃金
企業内最低賃金を産業の公正基準を担保するに相応しい水準で要求し、協定化をはかる。
6)一時金
月例賃金の引き上げにこだわりつつ、年収確保の観点も含め水準の向上・確保をはかることとする。
4.賃金管理研究所・2018の指針としては
平成30年度の賃上げにおいてはルール通りの「定期昇給」が基本となる。ベースアップも含めた賃上げ率は大手企業で 2.5%、中小企業では2%ほどと予測しています。業績の良し悪しに関わらず、人材の確保・定着が課題である会社では、定額加給に加えて調整手当などによる政策的な水準引き上げが必要です。業績良好な会社は賞与原資の増額を検討してください。