さる8月10日、時事通信社香港支局主催の「香港時事トップセミナー」にて「いま中国では何が起きているか?」を演題とする講演を行った後、11日に香港から北京に向かった。その翌日の12日に、北京から100キロ離れた天津市でシアン化合物による爆発事故という大惨事が起きた。
天津市政府の発表によれば、23日時点で大爆発による死者が123人(うち、消防隊員70人)、行方不明者50名(うち、消防隊員34人)、負傷者で入院治療を受けている人も624人にのぼる。
また中国現地のマスコミ報道記事によれば、大爆発の被害を受けた住民は1万7000世帯、工業企業1700社、商業施設675社、被害車両8000台、直接経済損失(被害金額)が100億元超(約2000億円)に達する見通しとなる。
上海発株価暴落、北京発人民元切り下げに加え、天津大爆発事故が発生し、相次ぐ中国発の衝撃が世界を震撼させている。
この天津大爆発事故の影響が実に大きい。まずは政治的影響。周知の通り、昨年、令計画・党中央統一戦線部長が汚職のため摘発されて失脚した。その後任に孫春蘭・天津市書記が就いた。昨年末から黄興国・天津市長は書記代行の形で書記と市長を兼務しているが、事実上、市書記が空席となっており、政治空白が出来ている。天津大爆発がまさに政治空白期に起きた事故である。
習近平政権は辣腕を振って腐敗是正に力を入れ、国民から絶大の支持を得ている。しかし一方、数多くの高級幹部が摘発され失脚し、ポストの空席も目立ち、地方行政や経済活動に影響を及ぼしているのも事実である。天津大爆発事故はこうした反腐敗の陰の部分を露わにした側面が否定できない。
さらに、9月3日に対日戦争勝利70周年記念日に軍事パレードが予定されており、国威発揚の絶好のチャンスだが、その直前に天津大爆発事故が起き、習近平政権への打撃が大きい。
経済的影響はもっと深刻だ。1つ目は中国輸出入への打撃が避けられない。天津港は2014年世界港湾貨物取扱量ランキングでは(1)寧波・舟山港、(2)上海港、(3)シンガポール港に次ぐ4位とランクされ、中国輸入車の4割が天津港経由である。大爆発事故によって、天津港はマヒ状態となり、中国輸出入の打撃が大きい。今年7月、中国の輸出と輸入は前年同期に比べて、揃って8%超減少しており、景気減速を印象づけている。世界4位の天津港のマヒ状態が長引くならば、中国輸出入の不振を一層深刻化させかねない。
2つ目は中国経済への打撃だ。天津市は31省・市・自治区の中の経済成長優等生である。図1に示すように、2008~13年天津市の経済成長率は7年連続で全国1位をキープし、14年は11%成長で若干スローダウンしているが、依然全国3位とランクされる。1人当たりGDPは2011年に上海市を凌ぎ全国ナンバーワンになった。以来、4年連続でこの栄冠を保っている(図2)。大爆発事故によって、全国経済優等生の天津市のみならず、中国経済全体へのマイナス影響が懸念される。
3つ目は外資への打撃である。天津市は外国企業の集積地の1つであり、今回の大爆発によって、多くの外資系企業が被害を受けている。そのうち、日系企業、特にトヨタの被害が目立つ。大爆発により、日本から輸入した車両と現地で生産した車両の計4700台に被害が発生している。また、トヨタの天津市の生産工場は爆発現場に近接するため、8月17日から26日までの営業停止に追い込まれた。日本ほどではないが、ドイツ、フランス、韓国、オーストラリアの企業も大爆発の影響を受けている。
現在、世界は経済地震が起きており、その震源地はまさに第2位の経済大国である中国だ。今年6月以降、上海株価暴落、人民元切り下げなど中国経済減速の懸念が広がっている。この時に、天津大爆発事故が起き、中国経済への逆風が一層強まることは間違いない。中国経済はどこに向かうかが今、世界に注目されている。