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第1回 草津温泉(群馬県)――温泉地の横綱を支える「泉質主義

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

「かけ流し」と「循環濾過式」
 
 多少お金をかけてでも本物を手に入れたい――。そんな「本物志向」を追求する消費者が増えており、そうしたニーズに応えることが企業の生き残り戦略のひとつになっているが、温泉に対する本物志向はますます高まっているように感じる。
 
  温泉における「本物」とは、シンプルにいえば「源泉かけ流しであるかどうか」に尽きる。温泉の湯船での利用方法には、大きく分けて「かけ流し」と「循環濾過式」の2つがある。
 
 「かけ流し」とは、湯船に注いだ源泉が、湯船からそのままあふれ出す方式のことをいう。とくに加水や加温することなく、湧き出した湯がそのままかけ流しにされた湯船は、「源泉100%かけ流し」と表記される。
 
  一方、「循環濾過式」とは、一度湯船を満たした湯を回収し、毛や垢など湯の汚れをろ過し、塩素系薬剤によって殺菌したうえで、湯船に戻す給湯方式。最近では、2つをミックスした「併用式」も多いが、一説には、全国の温泉施設の7割が循環式だといわれる。
 
 高度成長期以降、ホテルや旅館が大型化したことによって、湯船の拡大、露天風呂の増設などが相次ぎ、これまでの温泉の湧出量では湯船を満たせなくなったことが循環式の普及に拍車をかけたという経緯がある。
 
  限りある温泉資源を再利用できるという点は循環式のメリットだが、一方で温泉を使いまわすことにより温泉の成分や個性が失われることは大きなデメリットである。しかも、塩素を投入すると、まるでプールのような強烈な匂いがするケースも少なくない。これでは温泉情緒も味わえない。
 
 かけ流しと循環式では、その入浴感に大きな差がある。これまで3500カ所を超える温泉に浸かってきた経験から言えるのは、やはり「かけ流し」のほうが温泉の個性を肌で感じられ、入浴感も圧倒的にすばらしい、ということだ。それについては多くの入浴客も気づきつつある。「本物」でなければ、温泉に入った気がしない、と。
 
  草津温泉(群馬県)は、日本を代表する温泉地のひとつである。草津は中世以来の湯治場であり、江戸から明治にかけての温泉番付で、東の草津は、西の有馬温泉とともに最高位(大関)の座を保ち続けた。現在でも、全国的に温泉地が寂れていく中、草津はいつも多くの観光客で賑わっている。
 
 その基盤となっているのが、自然湧出量日本一を誇る源泉のパワーである。実に、1日に毎分3万6000リットル(ドラム缶25万本分)が湧き出している。今年1月に本白根山が噴火したが、豊富な湯量は火山活動の恵みでもある。
 
  そんな草津温泉は「泉質主義」を掲げて、湯そのものの魅力をアピールしている。100以上の温泉施設のほとんどの湯船で、本物の「かけ流し」を堪能できるのは、草津温泉の大きなセールスポイントである。ちなみに、温泉街には無料で開放されている共同浴場がいくつかあり、他の消費財と違って、「お金をかけなくても本物に触れることができる」のはうれしい。
 
 草津温泉の豊富な湯量を実感できるスポットは2つ。1つは、温泉街の中心に位置する湯畑だ。こんこんと湧き出す毎分4000リットルの温泉は、湯の花を採取するための木樋を通って、滝のように流れ落ちる。すさまじい量の温泉がドドドッという音をとどろかせている光景にただただ圧倒される。
 
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西の河原露天風呂
 
 もうひとつは、温泉街の西のはずれに位置する「西の河原露天風呂」だ。500平方メートルの広大な露天風呂は日本最大級の大きさで、学校のプールがすっぽり収まるくらいのスケール。湯気で奥が見通せないほどだ。それでも源泉かけ流しだから圧巻である。
 
 宿泊施設もリーズナブルな湯治宿から、伝統を誇る高級旅館、家族向けの大型ホテル、若者向けのペンションまでさまざまなお客のニーズに応えられるのも草津の特徴だが、ゆっくり仕事の疲れを癒すなら、「ての字屋」がおすすめ。名物の「天然岩風呂」は、岩の割れ目から温泉が湧き出ており、その湯が直接湯船に注がれる。湧きたての温泉に浸かる、という贅沢な体験ができる。本物中の本物であり、全国的に見ても、非常に貴重な湯船だろう。
 
 1月の本白根山の噴火によって宿泊客のキャンセルが相次いだが、本物にこだわる「泉質主義」を貫くかぎり、必ず観光客は草津に戻ってくるだろう。
 

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