先日、日本総合研究所理事長寺島実郎氏の懇意で、氏がMCを務める番組・BS11「ビジネス講座・世界を知る力」に出演した。寺島氏は私の三井物産戦略研究所及び多摩大学勤務時代の上司であり、大変お世話になった方である。氏と対談する中で、2人は中国主導AIIB(アジアインフラ投資銀行)の構想力について熱く議論した。
戦略の観点から見れば、組織は常に構想力で動くものである。共感を呼ぶ構想力を持つかどうかは組織の行方を左右する。
中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、なぜアメリカの反対にも関わらず、英・仏・独・伊・豪・韓など多数のアメリカ同盟国を含む世界57ヵ国の参加獲得に成功したか?筆者は、最も重要な要素はAIIB構想が世界各国の共感を呼んだ点にあると思う。
それでは構想力とは何か?それは物事を体系的に考え、新しい価値の創造に繋げる力である。構想力は次の3つの要素から構成される。
(1) ニーズと現実を正しく認識し、眼に見えないものを見る力(想像力)
(2) 単に想像するだけでなく、行為・行動に繋げる力(行動力)
(3) 行為・行動を通じ、新しい価値を創造する力(創造力)
AIIB構想は正に想像力、行動力、創造力という3つの要素を備える戦略的構想と言える。
AIIB構想の原点は「要想富、先修路」(豊かになりたければ、先ずロードを造ろう)という習近平国家主席2014年10月24日AIIB設立覚書調印式での発言にある。ここに言う「路」とは鉄道、道路、港などインフラのことを指す。インフラ整備は豊かさの実現や経済活性化の前提条件の1つである。これは中国を含む万国共通の経験則でもある。インフラは中国、アジア諸国と欧州及びその他地域諸国の共感を呼ぶキーワードであり、AIIB構想のコアである。
先ず、アジア諸国のインフラ整備のニーズと現実を見よう。アジア開発銀行(ADB)によれば、2020年までアジア諸国のインフラ需要は年間8000億ドルに上る。だが、実際にアジア開発銀行と世界銀行はそれぞれ年間100億ドルしか資金提供ができず、需給ギャップが大きい。アジアの持続成長を保つために、インフラ整備が必要だが、資金は足りない。アジアにインフラ整備の専門銀行も存在しない。
そこでアジアインフラ整備の需給ギャップをいち早く注目し、解決策を模索したのは中国である。この解決策は他ではなくAIIB構想である。
インフラ整備が中国の得意分野でもある。世界高速鉄道の約半分が中国で走っている。高速道路延べキロ数世界一位の国も中国である。世界港湾コンテナ扱い量ランキング上位10港に中国の港が7つもランクされている。一方、資金力も豊富で世界一の外貨準備高を誇る。インフラ整備必須の粗鋼やセメントは中国の生産量が世界の約半分を占める。AIIB構想で中国の豊富な資金力を活用し、インフラ輸出で国内の生産過剰を消化させる。アジア諸国の経済活性化に貢献する一方、中国経済のネック解消にも役立てる。一石二鳥の構想と言える。また、「一帯一路」構想{陸上と海のシルクロード構想}でアジアと欧州を繋げ、中国主導の巨大な欧亜経済圏が誕生する。
一方、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど欧州諸国は豊富な資金力と成熟したインフラ技術を持っている。AIIBを媒介として、金儲けし、成長アジアからエネルギーを最大限に吸収し、停滞ヨーロッパを活性化させる欧州の思惑は融けて見える。
要するに、AIIB構想は中国の思惑、アジア諸国の思惑及び欧州諸国の思惑を上手くセットし、各方の共感を呼んでいる。結果的には57ヵ国がAIIBの創設メンバーとなる。共感を呼ぶことはAIIB設立成功のキーポイントと言える。この意味で、日本企業はAIIB構想から学ぶべきものが多いと言っても決して過言ではない。