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経済・株式・資産

第17話 鄧小平氏の松下訪問とハイアールのパナソニック白物家電買収

中国経済の最新動向

 今年7月28日、パナソニックは、子会社の三洋電機の洗濯機と冷蔵庫事業を中国の家電最大手海爾集団(ハイアール)に売却すると発表した。売却対象は三洋の日本国内と東南アジアにある白物家電事業である。売却額は100億円を超えると見られる。
 
 マスコミの報道記事を読んで、すぐ頭に浮かんだのは1978年当時の中国最高実力者鄧小平氏の来日および松下電器の訪問である。
 
 1978年10月、鄧小平氏は初めて日本を訪れた。訪日の目的は2つ。1つは日中平和友好条約の批准であり、もう1つは日本を代表する大手企業を見学し、日本がいかに高度成長の奇跡を作り、世界第二位の経済大国を築き上げたかを自分の目で確認し、それを参考に中国の改革・開放政策の導入を考案・模索することである。
 
 鄧小平氏が見学したのは日産自動車、新日鉄、松下電器(現パナソニック)である。日産や新日鉄の工場を見学した際には、次のような感想を述べている。
 「ここ(日本)に来て、近代化や現代化がどんなものかが遂にわかった。先進国、特に日本産業界の、われわれに対する協力に感謝したい」。
 
 大阪にある松下電器本社を訪問し、当時の松下幸之助社長と会談を行った際、中国の古典「西遊記」のヒーロー・孫悟空の話で盛り上がった。鄧氏は次のように述べている。
 「第二次世界大戦後、日本経済の発展は速く、多くの孫悟空が出てきた。例えば、東芝の土光敏夫、新日鉄の稲山嘉寛、また貴方松下幸之助先生。あなた方が中国にいらして、両国の経済協力を行い、中国企業にもあなた方のような孫悟空を輩出させるようお願いします」。
 
 鄧小平氏の日本訪問は、日中間の経済協力関係構築のきっかけとなるのみならず、中国の改革・開放政策導入の起爆剤ともなった。2ヵ月後の1978年12月、歴史が動いた。画期的な中国共産党「三中全会」が開催され、鄧小平氏が提案した「改革・開放」は国策として正式に決定された。
 
 それから32年後の2010年、中国はGDPで日本を追い抜き、世界第二位の経済大国に躍り出た。しかも「孫悟空」のような人物も中国経済界に多く出現するようになった。鄧小平氏の悲願は遂に実現した。
 
 中国経済界の「孫悟空」の1人はまさに、鄧小平氏が自ら訪問したパナソニック(旧松下電器)の白物家電事業を買収した海爾集団(ハイアール)の会長兼CEO・張瑞敏である。
 
 ハイアールは1984年創業の中国家電メーカーの最大手。ハイアールが歩んできた27年歴史の中に、「ハイアールの原点」と言われた出来事がある。それは創業者の張氏が従業員たちを率いて76台の欠陥品冷蔵庫をハンマ―で叩き壊した衝撃的な出来事だった。張氏は会社を創業してから間もなく工場が生産した76台の冷蔵庫が欠陥品だったことがわかり、直ちに社員大会を開き、これらの欠陥品を全部ぶち壊すことを宣言した。しかも従業員たちと一緒に自分たちがつくった欠陥品を自分たちの手で叩き壊した後、彼をはじめ管理職全員に対する減給処分も発表した。社員たちの心を震撼させる行動を通じて、品質管理を徹底し、「品質は会社の命」という意識を従業員に浸透させたのである。
 
 あれから26年。2010年度世界白物家電のシェアでは、ハイアールの冷蔵庫が12.6%で1位、洗濯機9.2%で2位、ワインセラー14.8%で1位をそれぞれ占めている。創業僅か26年で世界白物家電の頂点に達したハイアール。このスーパー企業を率いるのは創業者で会長兼CEO張瑞敏氏であり、中国経済界の「孫悟空」と言われる。
 
 32年前の鄧小平氏の来日および松下電器訪問。32年後の日中GDP逆転およびハイアールによるパナソニックの白物家電事業買収。もし鄧小平氏がまだ生きていれば、本人もきっとこの変化の速さに感無量に違いない。

 

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