コロナ禍の影響を受けて資金調達が課題となっている経営者は多いだろう。
一方で、資金調達の方法も様々な手法が生み出され、多様化が進んでいる。
シンジケートローン、コミットメントライン、PEファンド、投資事業組合、ABL、etc.
名前は聞いたことがあっても果たして、自社で使えるのか?どんなメリットがあるのか?どんなリスクがあるのか?どうすれば活用できるのか?
と、よく分からないものも多いのではないだろうか。
そこで、中小企業の資金調達手段として有効な方法をいくつか紹介して行こうと思う。
今回は、ABL について解説したい。
ABLとは?
ABLとは、 Asset Based Lendingの略称で、動産や売掛債権などの資産(Asset)を担保として融資を受ける資金調達手法である。
大まかなスキームは、図のように企業が持つ在庫や車両・機械などの動産、或いは売掛債権を金融機関が担保設定し融資を行う。そして金融機関は、担保の状況を随時モニタリングするという手法である。
コロナ禍でABLが注目される理由
このABL、実は今、非常に注目されている。
理由は、以下の3点。
① 不動産資産を持たない企業も活用できる
業績が厳しい、不安定な企業が銀行から融資を受ける為には、担保を求められる事が多い。
担保と言えば不動産と考えがちだが、動産や売掛金を担保として活用するのがABLだ。
不動産資産を持たない企業や不動産資産は持っていても評価が出にくい地方企業にとっては、有効な手法である。
② 譲渡禁止債権も活用できるようになった
ABL普及のネックに、譲渡制限特約のついた売掛債権を担保にする事が難しいという問題があった。登記したり承諾を得るなどの対策はあったものの、信用低下への懸念や手続きの煩雑さがネックとなっていたのである。
それが、本年4月1日施行の民法改正によって、譲渡制限特約が付いていても債権譲渡が原則有効となったのである。この改正によって中小企業、特に下請事業者が親事業者に対する売掛債権を活用した資金調達が行いやすくなった。
【参照】法務省、経済産業省:債権法改正により資金調達が円滑になります
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/ABL/14_1.pdf
③ 事業性評価を標榜する地域金融機関が力を入れている
経営改革に積極的な地域金融機関は、地域経済の再生・活性化には目利き力を高める事が欠かせないとして、企業に対する事業性評価を重視している。
ABLは、企業の在庫や売掛金の中身を分析・評価し、そして融資実行後もモニタリングする事となり、正に企業の事業性に踏み込む融資であり、目利き力を養う取引として再認識されている。
どのような企業が活用しているのか?
いくつかの活用事例を紹介する。
【事例1】
借手企業:食品製造業
貸手 :地方銀行
対象担保:和惣菜(原料、半製品、製品)
金額 :2億円
資金使途:運転資金
取組経緯:
事業サイクル上、原材料を仕入れてから商品である和惣菜を製造、納入して代金を回収するまでの間に一定の時間がかかることから、必要運転資金の平準化が難しく、これを補完する融資手法として、原材料、半製品及び製品を担保対象としたABLを申込み。
効果等 :
① 在庫の内容や商流の状況確認を行うことで滞留在庫等の把握がより詳細に可能となり、在庫適正化に向けてより詳細・現実的な方法を検討・実行できる。
② 在庫や商流についてのより詳細な把握・モニタリングが可能となり、銀行との情報に関する非対称性が解消した。
③ 担保評価書作成時の評価会社による業界等ヒアリングにより、当社の業界での評判等外部からの客観的な把握が可能となった。
④ ①~③の効果により、取引他金融機関からの信頼性が向上した。
【事例2】
借手企業:工具卸売業
貸手 :都市銀行
対象担保:在庫(切削工具一式)、売掛債権
金額 :3億円
資金使途:運転資金
取組経緯:
工作機械のドリルなど切削工具を扱う卸売業者。製品種類は 非常に多く、取引先の要望に即時に対応するためには多種多様・大量の在庫が必要であった。安定的な在庫資金の調達方法を模索していたが、不動産等の担保提供可能資産は少なく、銀行の信用与信の許容範囲での調達に留まらざるを得ない状況にあった。
銀行の要請に基づき評価会社が担保対象となる在庫(原材料・製品)について詳細な精査を実施したところ、世界的にもトップクラスの製品を扱っており、その資産価値が十分に認められることが判明。また、実地調査や監査法人の調査を通じて、多品種にも関わらず在庫の保管が整備され、管理体制もしっかり確立されているとの評価が得られ、結実した。
効果等 :
① 資金繰りが安定し、顧客の求める取扱い製品の幅を広げる事が可能となり、売上の増加につながった。
② 事業に対する銀行の理解が深まり、銀行の取引先企業への商斡旋を受け、商売が拡大した。
【事例3】
借手企業:家電量販店
貸手 :新規行
対象担保:在庫(家電等)
金額 :10億円
資金使途:期限到来借入の返済および赤字資金
取組経緯:
中堅の家電量販店である当社は、業績の悪化により、メイン行である地方銀行等への既存借入金の返済資金が不足していた。既存の金融機関からの資金調達を望んでいたが、当時の収益力・信用力では融資額自体が既にメイン行が支援できる上限に達しており、メイン行を含む既存の金融機関は、融資の増額は難しい状況であった。
そこで、メイン行は、動産の評価会社に動産担保の適正可否の照会をかけ、並行して新規行にABLでの融資可否を打診した。
その結果、メイン行、新規行及び評価会社の三者でABLでの融資実施のスキームについて検討を行い、取り扱い商材の店舗内・物流施設内の全在庫を担保目的物としたABLのスキームを提案し、実行に至った。
効果等 :
① 赤字店舗の撤退や在庫処分を計画的に実行することが可能となり、必要以上のバルク処分などで赤字を拡大せずに済んだ。
② 在庫管理の徹底が売れ筋商品の分析などにつながり、効率的な仕入れや効果的な販促活動を行えるようになった。
③ これらにより利益率も改善し、業績も改善傾向。
事例にもある通り、ABLを受ける企業は、土地などの資産が無くても、或いは、業績が悪化していても対象となり得る。
一方で、必要な条件は、担保となる在庫などの動産、売掛債権の換価価値の評価が出来る事と管理状況が良好である事である。
長期滞留の在庫や売掛金、或いは換価価値の評価出来ないものなどは担保不適格となり、また、散逸してどこにあるのか分からないといった管理の疎かな状態では対象にならない。
利用における注意点
ABLは事例にあるように、効果的に利用すれば資金繰りの安定化だけではなく、銀行との信頼関係の構築や業績向上にもつながる、有効な融資形態である。
しかし、市場としてはまだまだ小さい。
先行する米国では、法人向け融資の2割、50兆円以上の規模と言われているが、日本ではまだ、年間 1万件、8千億円程度の取扱いに止まっている。
そのため、金融機関によっては全くノウハウがない。また、ABLに欠かせない担保評価や換価処分、モニタリングなどの専門業者も少なく、市場としての厚みがないのが実状だ。
このような中でABLを申込むとなれば、次の3点に注意してほしい。
先ず第一に、実績とノウハウを持つ、ABLに積極的な金融機関を選びたい。積極的かどうかは、銀行の大きさではなく、信用金庫や信用組合でも実績豊富なところはある。ノウハウを持つ積極的なところをパートナーとすることは心強い。
第二は、担保価値を過小評価されぬよう、対象となる動産や売掛金の特徴や価値について、論理的に説明する事。担保評価には人の判断も入ってくるので、筋道立てた説明で、正しく理解させる事が重要だ。
第三は、メンテナンスに気を配る事。担保の管理は人任せでなく自社でしっかり行い、評価を向上させる取り組みが経営改善にもつながる。
以上、ABLは相手を選ぶ点は注意を要するが、資金調達力強化だけでなく、資産管理を通じての経営の質向上、金融機関との関係強化などにもつながる手法なのである。