M&Aが増加している。
下図は、国内M&A総件数の推移を表しているが、日本企業のM&A市場は、1985年の統計開始以来、リーマンショックや東日本大震災などによる一時的な不況期を除けば一貫して増え続けている。1985年の年間約260件から2021年の年間約4300件と、公表されている件数だけでも約35年で16倍以上である。
※ M&A Capital Partners 作成資料より
グラフを見るとIN-IN 国内企業間の案件が大きく増加しているが、その内訳として、実は中小企業による中小M&Aが大きく増加している。
次の図表は、中小企業M&A仲介大手3社と公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターによる中小M&A実施件数の推移を表しているが、ここ最近の増勢がよく分かる。
※中小企業庁:中小企業の経営資源集約化等に関する検討会資料より
一昔前までは、M&Aは大企業が主体となって行うものとの印象あったが、最近は譲渡側の規模は小規模事業者を含めて大小幅広く、また、譲受側も中小企業であるケースが多くなっている。
中小企業庁の調査によると中小M&Aの譲渡価格は2,000万円以下が過半を超え、譲受側の企業規模では、資本金1億円以下の中小企業が大半を占める。
※中小企業庁:中小企業の経営資源集約化等に関する検討会資料より
中小M&A増加の背景には、次の3つの要因がある。
1.事業承継の受け皿としての活用増加
日本全体において、令和7年(2025年)までに、平均引退年齢である70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人、うち約半数の約127万人が後継者未定と見込まれている。
後継者不在にもかかわらず、何らの対策も講じなければ廃業せざるを得ない。この場合には、従業員の雇用が失われたり、取引の断絶によりサプライチェーンに支障が生じたりするなど、多くの関係者の混乱を招き、地域経済にも悪影響を及ぼすおそれがある。 或いは、折角の優良な経営資源の喪失ともなってしまう。
このような後継者不足の解決策の一つとして、後継者不在 中小企業の事業承継の受け皿としてM&Aが増加している。
とは言え127万人の不足に対して年間3~4千件のM&Aではまだまだ圧倒的に少ない。M&Aに対する経営者の捉え方はプラスイメージに変化してきており、より一層身近な事として、今後更に増加が見込まれる。
中小企業庁:中小企業の経営資源集約化等に関する検討会資料より
2.政策支援措置の拡充
後継者不在の問題は国全体の経済力、競争力にも損失をもたらす重要な課題であり、中小M&Aを促進する政策支援措置は拡充されている。
下図は、2021年4月時点での支援措置の計画分を含めた一覧であるが、税制措置はじめ具体的に施行されている。詳しくは次回以降の経営コラムで説明したいと考えているが、経営者が相談し易い環境づくりから、M&A取引を円滑に進めるための金融支援や税制優遇、M&A実施後の経営統合段階で懸念されるリスクへの備えなど多段階で支援措置がとられている。資金力や情報に乏しい中小企業経営者にとって、政策支援の後押しはM&Aを決断する大きな支えとなっている。
※中小企業庁:中小企業の経営資源集約化等に関する検討会資料より
3.M&A支援機関の力量アップ
市場の拡大や政府による各種支援もあり、M&Aの実務をサポートする支援機関は年々増加し、案件組成力の向上も見られる。
商工団体(商工会、商工会議所、中小企業団体中央会等)、金融機関、士業等専門家(公認会計士、税理士、弁護士、中小企業診断士等)、M&A専門業者(仲介業者、FA(フィナンシャル・アドバイザー))、M&Aプラットフォーマーなどと共に、各都道府県に設置されている公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターも活動している。
下図の通り、M&A実行には様々なステップがあり、関係支援機関の連携は欠かせない。地方によっては、地域金融機関や専門家、引継ぎ支援センターなどとの連携体制の構築も進めている。ノウハウや情報の蓄積増加もあり、成就する案件も増えている。
※中小企業庁:中小企業の経営資源集約化等に関する検討会資料より
事業承継・引継ぎ支援センターについて
中小M&A増加に大きな役割を果たしているのが、事業承継・引継ぎセンター。
この機関は、事業承継・引継ぎのワンストップ支援を行う事を目的に、これまで第三者による事業引継ぎを支援してきた「事業引継ぎ支援センター」と、主に親族内承継を支援してきた「事業承継ネットワーク」の機能を統合して、2021年4月より全国47都道府県に設置されている。
業務内容は、以下の通り。
- 事業承継・引継ぎ(親族内・第三者)に関する相談
- 事業承継診断による事業承継・引継ぎに向けた課題の抽出
- 事業承継を進めるための事業承継計画の策定
- 事業引継ぎにおける譲受・譲渡企業を見つけるためのマッチング支援
- 経営者保証解除に向けた専門家支援 など
相談は無料。事業承継に問題を抱えつつも、どこに相談すれば良いのか悩んでいる経営者が気軽に相談できる環境を整えている。
以上、中小M&Aの状況についてご理解いただけたかと思うが、これから益々一般化し、当たり前の事として増加して行くと考えられる。経営者としては、自社の企業価値を高める、或いは存続させるための有効な手段として捉えておかなければならない。
【参考資料】
中小企業の経営資源集約化等に関する検討会取りまとめ ~中小M&A推進計画~
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/shigenshuyaku/2021/210428torimatome.pdf
中小M&Aガイドライン ~第三者への円滑な事業引継ぎに向けて~
https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200331001/20200331001-2.pdf
中小M&Aハンドブック
https://www.meti.go.jp/press/2020/09/20200904001/20200904001-2.pdf