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経済・株式・資産

第30回 中小M&A 買い手企業への支援策

どうなる金融業界

 中小企業経営者の後継者不足対策の一つとして中小M&Aが促進されており、その件数は急速に増加している。今回は、買い手企業に対する支援政策について見ておきたい。

 

 M&Aを実行するにあたっては、相手先の発掘に始まり、企業価値評価、財務・法務面のDD(デューデリジェンス)、契約締結、PMI(ポストM&A)など必要となる手続きは多岐にわたり、専門的知識とともに情報も必要である。コストも掛かるし、資金調達も行わなければならない。

 

 ほとんどの中小企業経営者にとっては初めての経験となるものであり、なんとなくハードルの高いものとなってしまっているようだ。政府としては関係機関や様々な支援策を用意して、M&Aに対するアクセスを容易にするとともにコストやリスクの軽減を図り、中小企業が積極的にM&Aに取り組む事を後押ししている。

 

 下表に中小M&Aに係る主な支援策をまとめた。

 買い手企業への支援策としては、M&Aそのものを円滑に進める段階でのものと、M&A実施後の経営統合を上手く進める段階のものとに大別できる。

 

 

M&Aを円滑に進める支援策

(1)マッチング支援

 先ずは相手探しから。取引金融機関や税理士、会計士などのルートからも売り手に関する情報を得られる事もあるが、事業承継・引継ぎ支援センターは無料相談できる。M&Aに関する様々な情報や知見があるので、事例などを参考に今後の進め方などを相談できる。また、専門業者やM&A情報プラットフォームなどの紹介も行っている。

 

(2)資金調達支援

 買い手企業にとって重要なのが買収資金の調達。

 日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化資金貸付では7億2千万円を限度として設備資金20年以内、運転資金7年以内、条件に当てはまれば特別金利での優遇も受けられる。

 信用保証協会でも経営承継準備関連保証として2億8千万円の保証枠を設けている。設備資金15年以内、運転資金10年以内など長い返済期間の設定が可能である。

 民間金融機関のプロパー融資と比較した場合、一概には言えないが返済期間は長く、担保や保証人の条件が緩いケースが見られる。

 

(3)事務コストの軽減支援

 コスト軽減支援策としては、補助金と税制優遇の二通りある。補助金は、DD(デューデリジェンス)に掛かる費用や仲介を務めるFA(フィナンシャルアドバイザー)への経費などに対して、総額の1/2以下、400万円以内の支援。

 税制優遇は、事業譲渡に伴う土地・建物移転に係わる登録免許税、不動産取得税の軽減が受けられる。

 

(4)法的支援

 業法上の許認可の承継や、事業譲渡の際の免責的債務引受に関する特例措置も受けられる。許認可事業を承継する場合、当該許認可に係わる地位をそのまま引き継ぐ事が出来るなどの特例措置が受けられ、スムーズな事業承継が可能。

 

(5)投資損失準備金支援

 簿外債務の発覚などM&A後に発生するリスクへの備えを支援する税制措置。損失に備えた資金を無税で積立できる。

 株式取得資金の70%を限度に準備金として積み立て、損金処理。その後、損失が発生した時点、もしくは5年後から5年間で積立金を取り崩し、益金算入する。

 

 

M&A実施後の経営統合を進める支援策

(1)事業活性化への投資支援

 買収した事業を活性化させる投資支援策としては、補助金と税制優遇の二通りある。

 補助金は、人件費、店舗等借入費、設備費、原材料費、産業財産権等関連経費、謝金、旅費、マーケティング調査費、広報費、会場借料費、外注費、委託費などの幅広い事業費を対象として、投資額の1/2以下、500万円以内の支援。

 税制優遇は、経営力向上計画に基づく設備投資について、投資額の10%を税額控除、または全額即時償却の措置が受けられる。M&Aによる投資効果を高めるための支援である。

 

(2)雇用確保への支援

 M&Aに伴って行われる労働移転等によって、給与等支給総額が対前年比で5%以上増加した場合、給与等支給総額の増加額の25%を税額控除受けられる。

 M&Aで広がる事業領域への人材投入を促進して、事業統合を促進させる支援である。

 

 

経営力向上計画は使わないともったいない!

 上表を見ると多くの支援策が「※経営力向上計画」の認可取得が条件となっている事が分かる。

 

 経営力向上計画は中小企業等経営強化法に基づき平成28年にスタートした制度で、中小企業経営者が人材育成や財務管理、設備投資など経営力を向上させるために取組む内容を記載した事業計画である。事業所の所管大臣の認定を受ければ、税制優遇や資金調達支援、補助金の獲得が有利になるなどのメリットを享受出来る。

 

 今回はM&Aに係わる支援策として着目したが、M&Aでなくとも経営力向上に向けた設備投資やビジネス拡大策に対して優遇措置が適用される。つまり、全ての中小企業にとって使わないと損とも言える制度である。


 令和4年7月31日現在、143,676件を認定(経済産業省:66,837件、国土交通省:44,699件、 農林水産省:13,751件、厚生労働省:9,722件、国税庁:2,023件等)との統計であるが、300万者とも言われる中小企業に対してほんの5%にも満たない数である。

 

 M&Aを考えている経営者はもちろんの事、そうでなくとも「経営力向上計画」の認定は取得しておいた方が良い。

 

 以上、買い手企業への支援策を見てきたが、どれを利用するにもある程度計画的な取組みが必要である。しかし、それ程難しい手続きではなく、求められる内容も簡単だ。気軽に相談できる環境も整っているので、どんどん利用しないともったいない。

 

中小企業庁:経営サポート「経営強化法による支援」概要資料など

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/

事業承継・補助金の概要

https://jsh.go.jp/r4/assets/pdf/explanation_common.pdf

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