サイバーリンクス(証券コード:3683)は地方公共団体向けの各種システムを手掛ける企業である。ここに来て、これまで民間に比較して格段に出遅れていた官公庁のDX化に関して、国を挙げて取り組む姿勢が強まっている。同社はM&Aを活用して着実に広範囲の地方公共団体のDX化に対応できる体制を整えてきたことで、地方公共団体のDX化進展の恩恵をフルに享受できる状況になってきたと言えよう。
2022年8月には自治体DXサービス「Open LINK for LIFE みんなの窓口」を開始している。これはマイナンバーカードを活用し、自宅にいながら、自治体への税務申請や相談を行うことが可能となるサービスである。
また、2022年における最も大きな事案は、2022年7月に自治体向け文書管理システム「ActiveCity」に強みを持つ、株式会社シナジーを子会社化したことである。
文書管理システムの需要構造は大きく分けて3層構造となっている。最も大規模なものは都道府県庁・政令市・特別区などが対象で、中規模が中核市・中堅市・独立行政法人など、そして小規模はそれ以外の市町村などとなる。シナジー社は都道府県庁で3件、東京23区で1件の実績はあるものの、圧倒的に中規模の市場に強い会社である。
役所は文書で全てを残す仕組みであり、これまではすべてそれらを紙で残していた。そうなると今回のコロナ下で痛感したことは、紙の文書しかなければテレワークのしようがないということであった。それだけではなく、業務の効率化も同時に進める目的もあり、テレワーク上で見られるようにするためにはサーバーに保存する必要がある。これにはシンクライアント(ソフトもデータもすべてサーバーにあって、目の前のパソコンはディスプレイ機能のみ)が必要になる。シンクライアントのサービス自体はサイバーリンクス本体が提供している。もっとも、サイバーリンクス自体のシンクライアントの納入実績は現時点では3市町村にとどまっているが、今回シナジー社の文書管理システムを手に入れたことから、このセットで急速な普及を目論んでいる。
文書管理システムに関しては、全国自治体(1,800団体)の半数以上が未導入であり、全体の市場規模は60億円超と見込んでいる。なかでも、シナジー社が得意とする中規模市場が最も成長率が高いと考えられている。シナジー社の文書管理システム「ActiveCity」はリリースから約10年で、ユーザ数は80団体以上となっているが売上規模としては現時点では数億円にとどまっている模様である。
このように万全の体制を整えたことで、当面、官公庁のDX化推進の波に乗り、サイバーリンクス、シナジーの両社のサービス浸透によって、着実な成長が見込まれるものと考えられる。
有賀の眼
同社のこれまでの収益の中心は地方公共団体向けのビジネスとドコモショップの運営であった。地方公共団体向けのビジネスは予算の割り振りによって、事業自体が大きな影響を受け、好不調の波が大きかった。ドコモショップも携帯電話市場の競争環境やそれに対するドコモの販売施策により、やはり好不調の波があった。
そのため、2010年代の同社の経常利益は3億円台から7億円台という範囲で上下動を繰り返してきた。つまり、利益成長が見られない状況にあった。しかし、近年はそれらの好不調の波の大きな事業とは別に、2005年から開始したクラウド型の食品小売業向け基幹業務システムが着実に顧客層を広げたことで、安定的かつ着実に利益が積み上がる体制が構築されてきた。その結果、この3期ほどで一気に11億円強の経常利益を上げるまでになっている。
食品小売業向けの基幹業務システムは今後も長期間にわたって着実に利益を積み上げて行くと見られることに加え、今後はさらに、官公庁DX化の急進展を追い風に急速な利益成長を享受できる体制が整ってきたと言えよう。