同社のITクラウドビジネスの60%は食品スーパーに特化した基幹業務クラウドである(サービス名:@rms)。食品スーパーという特定の業態に特化することで、ローコスト化を実現したものである。会社側によれば、小売業の基幹業務系のシステムをコンピュータメーカーに依頼すると、売上高800億円クラスの食品スーパーでも月額400万円もかかってしまうようである。そこで、同社のパッケージソフトを使えば、1ケタ異なる価格でできるというもの。
昨年のような消費税増益対応でシステムを手直しすると、それこそそれだけで何千万円もかかるが、同社のシステムであれば、同社の負担で手直しを行い、新税率対応のオプションでも顧客負担は50万円ほどで済んでしまう。その意味では、不都合がなければ、一度契約すると継続的に使用され、基幹業務以外の様々な業務にも用いられるようになり、同社にとってはコンスタントに売上が拡大して行くものとなる。
その他に、ITクラウドビジネスの20%を占めるのが、卸売業向けのクラウドEDIシステムである。ウエブ上の決済処理の方式はメーカーごと、小売業ごとにばらばらで200種類近くのバリュエーションがある。そのような企業と取引する場合には、その方式ごとに変換するシステムがなければ、コンピュータで処理することができない。しかし、同社のシステムを使えば、それらの規格を変換して統一することができる、とても便利なシステムである。加工食品卸売業の上位10社中7社が同社のシステムを利用している。
実は同社がこのビジネスを行うきっかけを作ったのが、加工食品卸売業の菱食(現三菱食品)の中興の祖と言われる廣田氏(元菱食社長)であった。廣田氏は地域に密着した食品スーパーの近代化のためにはローコストで導入できるシステムが必要であるから、ぜひともそれを開発してはどうかという氏の持ちかけが、同社がシステム開発に参入するきっかけであったということ。
廣田氏は弊著「日本の問屋は永遠なり」(大竹愼一氏との共著)の出版に当たり、様々な助言をいただいた方で、私にとっても思い入れの深い人だけに、同社には極めて親近感がわくのである。
有賀の眼
同社はまさに今はやりのクラウドビジネスである。クラウドビジネスと言えば、ネット企業であり、リアルビジネスを行っていると無縁のように思えるが、実は同社のようにリアルビジネスをローコストで効率的に回すような仕組みを販売する企業は無数にある。様々な企業が様々な業界向けにシステムをクラウドで提供している。
加えて、会社側が述べているように、その企業が独自システムを開発するととんでもなく高額の費用が掛かるものである。かつて、自分が担当していた食品企業では社内の基幹業務システムを一新するためにほんの十数年前に100億円ほどでシステム開発を外注したと述べたのを聞いて、腰を抜かしそうになったことがある。そんなに費用が掛かるのかと。
しかし、別の外食系の理系の社長がいる会社では、社長自らシステムを理解しているヘッドをスカウトし、分かっている人間を連れてくれば、100億円吹っ掛けられることはなく、2-3億円で済むと述べていて、妙に感心したものである。
ことほど左様にリアルな世界ではそこまで似たようなものに価格の差はないが、ネットの世界はコストが見えにくいだけに、同じ効用でも一ケタも二ケタも価格の差があるのだろうと思う。願わくば多くの食品スーパーが、同社のクラウドサービスを利用して、ローコストで効率的な経営を手に入れてもらいたいと思うものである。