日本一のマーケッターと呼ばれる経営コンサルタント、神田昌典さんの話題の近著『全脳思考』という本を読みました。分厚い本ですが、一気に読めて、すごく面白い内容でした。
この本の中に、思考レベルの4段階という話が出てきます。C・オットー・シャーマー氏が体系化した「U理論」をもとに本質的な問題に触れるまでの思考の4段階として紹介されています。
【レベル1:ダウンローディング】
過去にうまくいった方法を繰り返す思考。自分という境界線がはっきりしていて、今までの思い込みの枠の中に情報を流し込むだけの段階。視点も自分という枠内にある。「ああ、それならもう知ってるよ」。
【レベル2:ファクチュアル(事実的)】
過去の経験に頼るだけでなく、客観データをもとに、問題解決を図ろうとする思考。現在の自分の位置を客観的なデータに基づいて判断し、論理的に問題解決を見出そうとする。「なるほど、事実はこうなんだ」。
【レベル3:エンパセティック(共感的)】
相手の立場から新たな現実を眺めることができる思考。顧客の悩み、喜び、悲しみ、怒りなどの感情を顧客が日常使っている言葉で共感でき、自分もそれに一体化している立場でともに問題解決を図る。「あなたの気持ちがわかります」。
【レベル4:ジェネラティブ(創造的)】
「私が体験したことはうまく言葉で表現できないのだけれども、何か大きなものとつながった感じがします」。
問題解決の提案に自分の人生が投影され、それを通じて顧客も自分も成長できると確信を得る。手放した感覚と、それによって自分が想定した以上の未来が思いがけず実現する段階。
ここを読んで、なるほど、全脳思考とは、全「身体」思考でもあるのだ、と思いました。
【レベル1:肺思考】
ふだん私たちが意識せずに行なう呼吸は、肺の上澄みの空気だけの出し入れになっています。肺全体の空気の出し入れには、深呼吸や腹式呼吸などが必要なんです。
ヨガなどの呼吸法では、肺は呼吸を通じて、大気に含まれる「見えない情報」を収集していると言います。肺は単なる酸素⇔二酸化炭素の交換ではなく、カラダの内と外の情報交換をしているということなんですね。
大気に含まれるさまざまな情報は、肺に到達するまでに、気管支で「枝分かれ」をして「仕分け」されます。
通常の呼吸は、ある種、定型パターン化されていますから、情報の仕分けパターンも定型化されているわけです。まさしくダウンローディング、「ああ、それならもう知ってるよ」状態です。
人は緊張すると、呼吸が浅くなりますが、緊張すると思考レベルもますます上澄みになります。吟味ということを加えることができずに、これまでの体験に照らし合わせて、右から左へ情報処理。この状態を打破するには、腹式呼吸が有効です。
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【レベル2:肝臓思考】
肝臓は、消化管を通過して入ってきた食べ物を一手に引き受ける臓器です。
心臓から腹部に向かう血液は、腹大動脈から、腹部消化器(胃、すい臓、小腸、大腸上部、脾臓)に送られますが、これらの器官に送られた血液は、「門脈」という特殊な血管に集められ、いったんまず肝臓に送られます。
消化管で「血液」と「食べ物」が混ぜ合わされた血液を「門脈血」と言います。この門脈血は全部肝臓に送られ、肝臓は、そこに含まれるものが、今、ほんとうに必要な栄養物なのか、解毒すべきものなのかを判断しています。肝臓は、血液に新しい栄養物を供給する、最終関門の役割をしているわけですね。
ゆえに肝臓は、客観的な指標が必要な臓器です。カラダの客観的データをもとに、栄養物を今必要なものなのか、備蓄しておくものなのかなどを決めていきます。「なるほど、事実はこうなんだ」。
肝臓は、冷静さや計画性を、非常に欲している臓器なんです。東洋医学で、「怒り」が肝臓を傷つけると言いますが、それは「怒り」という感情が肝臓の冷静で客観的な判断を妨げるからです。
この状態を打破するには、食事の際、よく噛むこと。また食べているものをよく味わうことが大事です。
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【レベル3:心臓思考】
心臓は、非常に共感的な臓器です。心臓が織り成す鼓動は、心筋細胞ひとつひとつの収縮・拡張の動きが全体として調和し、パルス状に発しているものです。
心筋細胞は、お隣の細胞同士の共感や調和なしには、鼓動を生み出すことができないのです。
心筋細胞の調和が生み出す鼓動はまた、その時々の「感情」に左右されます。喜び、恐れ、悲しみ、怒り。こうした精神状態に影響され、心筋細胞たちはいっせいにその収縮・拡張パターンを変えていきます。
鼓動が早くなったり、ゆっくりしたりするのは、心筋細胞の調和的な「感受性」によるものなのです。
『心房細動』という病気があります。心房内の種々の場所で無秩序な電気的な旋回(リエントリー)が起こることが原因と言われ、自覚症状としては不整脈となります。
これは、私流に言うと、心筋細胞の感受性に対立が起こっている結果だと考えます。相手の感情と自分の感情に大きな隔たりや対立があるとき、心筋細胞全体の共感性が低下してしまうのです。
この状態を打破するためには、ふだんから心臓にそっと手を当てて自分の鼓動を感じること。私にも私固有の鼓動パターンがあり、相手にも相手固有の鼓動パターンがあります。
その違いを認識した上で、その上の最大公約数で相手と同調できたとき、相手との深い共感が生まれるのです。
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【レベル4:腎臓思考】
腎臓には「手放す」というテーマが宿っています。
血液をろ過し、常に血液を浄化してきれいに保とうとするのが腎臓の働きです。そのためには古くなった血液を常に「手放して」いなかくてはなりません。
もちろん、手放すことには「恐れ」がつきまといます。東洋医学で「恐れ」が、腎臓を傷つけるというのはそのためです。
ただ、カラダにとっては、血液が濃くなると、川の流れによどみや沈殿物ができるように、血液の自然な流れを阻害してしまい、種々の問題をはらむことになります。
この状態を打破するには、手放すという作業を実際に行動に移すこと。掃除、本棚、資料の整理を通じてふだん気になっていた身の回りのもろもろをきれいに片づけることです。
腎臓は、生殖と生命維持、そして「成長」を担当する臓器です。新しい「成長」を生み出すためには、これまでの体験や価値観を手放してみることがきっかけになる、これが、腎臓が教えてくれるテーマです。
神田昌典さんはこの本の中で、時代が「情報社会」から、「知識社会」へ移行しているということを述べられています。
そうした時代の流れの中で、情報を収集・整理することが付加価値になる社会から、実際に行動に移すことが付加価値になる社会へと変わっていくと指摘されています。
たしかに情報洪水の中で暮らす私たちにとって、日々接触する情報を深く吟味し、自分の新たな行動へと結び付けていくための時間をとることはむずかしい。
でも、むずかしいから、誰もやらない。そこにこそ、これからのビジネスチャンスがあるのかも知れません。
U理論によって、「思考レベルが深まると、本格的な意識変革が起こる」と書いてありました。なるほどこれは、カラダにも、まったく当てはまる。「思考レベルが深まると、本格的なカラダ変革が起こる」。
1.肺思考:腹式呼吸(深呼吸でもいいです)。
2.肝臓思考:食事の際、よく噛む。また食べ物をよく味わうこと。
3.心臓思考:心臓にそっと手を当てて自分の鼓動を感じること。
4.腎臓思考:手放すという作業を実際に行動に移すこと。
ぜひ、ひとつでも「実行」に移して見て下さいね。