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戦略・戦術

「3人死のうが、10人死のうが同じだ」地獄の1,000人リストラの消えない教訓が「人を大切にする経営」の原点となった(第2話/全8回)

日本レーザー「人を大切にしながら利益を上げる経営」の極意

「会社のために、会社を辞めて欲しい」

当時手掛けていた新規事業のすべてを撤退する。それは、千何百人もの社員をリストラすることを意味していました。

一年間にわたって、3回の人員削減を行いました。ほとんどの新規事業に関わっていた事業所や工場を閉鎖して、形式上は希望退職としましたが、これは実質指名解雇と同じですよね。そういう状況の中での再建でした。

こんな理論を聞いたことがありませんか。「10人が乗った泥舟では、あの島まで行けない。7人であれば、なんとか島までたどり着ける。健康的な3人に浮き輪をあげて、舟から降りて頑張って泳いでもらえれば、全員が溺れ死ぬことはない」。

プレミアム退職金をうんとつけます、再雇用もできます、よそに就職してもらっても構いません。できる限りの「浮き輪」を渡して、対象者に「希望退職」を相談しました。私はこれでいいだろうと思っていたんです。

しかし、これが大きな間違いでした。

「舟から落とされる3人」の気持ち

会社に残ったって年収25%カットだし、残るも地獄、去るも地獄の状態です。退職者には最後に必ず面接をして、諸々を伝えたあと「お互いがんばりましょうね」ということで終わるはずだったんですが、多くの方から大変なお怒りを受けました。

「委員長、お前は誰から給料もらってるんだ?組合だろう。その組合費は誰が払ってると思うんだ!俺は15でこの会社に入った。中学校を卒業してから入社したんだ。30年経ち、40年経ち、一番長く組合費を払ってきた俺たちがなぜ、経営の失敗の尻拭いをさせられなきゃいけないんだ!組合は何やってんだ!」

辞めたくないけど辞めさせられた人たち。その喉がちぎれんばかりの怒号と罵声が今でも忘れられません。

さっきの理論で行けば、辞めさせられる人=海に投げ出される3人にとってみれば、7人が助かろうとも、そんなことは知らない。3人が死ぬなら、10人がドボドボ沈んでみんな溺れ死んだって、同じことだーーという気持ちなんだと言うことが、その時初めてわかりました。

結局、希望退職でも早期退職制度でも、どんな理由でも「人減らしは人減らし」なんだ。辞めさせられた人たちの心情を面と向かってぶつけられて、その時に何も返す言葉もなかった自分の無力さを痛感しました。

時が経って、日本レーザーの再建をする事になった際には、雇用問題だけは絶対に守ろう。「人を大切にする経営」でいくんだと心に誓ったのです。


■近藤宣之(こんどうのぶゆき)氏/日本レーザー 代表取締役会長

 社員を幸せにしながら26期連続黒字を続ける、信念の経営者。
 東証一部メーカー日本電子の最年少役員だった氏は、1994年、2億円近い債務超過で倒産寸前に陥った子会社・日本レーザーの再建を託され社長に就任。かつて、労働組合委員長として1000名規模の人員整理に直面。その後もアメリカ法人の再建を次々と成し遂げた手腕を買われての抜擢であったが、リストラを一切行なわず、再建の混乱に残ってくれた全社員の力を集結して2年で累損を一掃する。
 「会社は社員のために、社員は会社の成長のために力を合わせて働く仕組みなくして、持続的発展はあり得ない。赤字になると人を切ってしのぐ経営は危機に弱い」と思い至った氏は、雇用の確保と社員の成長・活躍支援を経営の最重要課題として掲げ、独自の幸福経営モデルへと改革。2007年には、経営の自由度を高め、自らが信じる理念を貫くため、全社員の出資と個人保証6億円を負っての借入金で親会社からの独立を果たす。
 この間、「70歳まで生涯雇用」「女性管理職3割」「年功型から同一労働同一賃金、実力主義型への移行」などをいち早く実現しながら、一貫して黒字を維持。同社を自己資本比率55%の実質無借金、10年以上離職率ほぼゼロの超ホワイト企業へと育て上げた。2018年より代表取締役会長。
 1944年東京生まれ。慶應義塾大学工学部卒。第1回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」中小企業長官賞など、受賞歴多数。人を大切にする経営学会副会長。千葉商科大学大学院商学研究科特命教授。東京商工会議所一号議員。著書に『中小企業の新・幸福経営』(日本経営合理化協会)『ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み』(ダイヤモンド社)ほか多数。

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