2021年4月1日から、商品やサービスの小売段階で、消費税額を含めた「総額表示」が義務化されました。
消費者にとっては、価格の税込表示は支払金額がわかりやすくなる一方、税抜の本体価格より割高に感じられる懸念があります。
そのため、企業は価格表示の変更が買い控えにつながらないように、さまざまな対応をしています。
今回は、「価格変更に際して、社長が月次決算で見なければならない数字」を3つのポイントで説明します。
事業者間での取引は、消費税額を含めた「総額表示」義務の対象となっていませんが、この機会に価格が業績に与える影響について一緒に考えてみましょう。
あなたは、行きつけの店の価格表示の変化に気づきましたか?
「総額表示」への変更を価格戦略として考える
「総額表示」の義務化をきっかけに、価格の見直しをしている店舗をよく見かけます。
価格改定には「値上げ」と「値下げ」があります。
飲食店などでは消費税の複数税率が適用されていますので、店内飲食時の税込価格(10%)と出前・テイクアウト時の税込価格(8%)が別価格となっています。今回の「総額表示」の義務化を機会に、本体価格を別価格にして、店内飲食価格に統一する店も増えています。
新型コロナウィルスの影響でテイクアウトが増えました。
テイクアウト用の容器代の価格転嫁をするだけでなく、消費税の煩雑な端数計算や釣り銭間違えの解消も価格統一の目的にあるようです。
ファーストリテイリングは、「ユニクロ」と「ジーユー」の商品を、税別価格から税込価格に切り替えました。
実質的な値下げが話題となっています。
一例として、税抜価格1,000円(税込価格1,100円)で販売していたTシャツが総額1,000円(税込価格)に変更となっています。
変更後の税抜き本体価格は909円となりますので、約9%の値下げです。
携帯電話大手3社の新料金プランは競争が過熱しています。
NTTドコモは2021年2月5日に月額データ容量20GBを月額2,980円(税抜)で利用できる新料金プラン「ahamo(アハモ)」を発表しましたが、各社の条件が出揃うなか、3月1日には条件はそのままで月額税別2,700円(税込2,970円)に値下げ改定しました。
同サービスへの申し込みはNTTドコモの想定を超え、ニュースにもなりました。
「総額表示」で3,000円未満となるタイムリーな価格戦略だといえます。
このように、消費者への価格表示が「総額表示」に義務化されることで、税込価格を想定した価格戦略に変わってきているのです。
御社は「総額表示」の義務化を機に、価格の見直しをしましたか?
(1)価格見直しによる売上高への影響を検証する
価格が変わると、月次決算の数字で最も影響があるのが「売上高」です。
売上高は次の算式で計算されます。
売上高 = 価格 × 数量
ユニクロのように価格を約9%の値下げした場合を考えてみましょう。
販売数量が同じなら、売上高は9%ダウンします。
しかし価格を下げれば9%以上の販売数量が増えることを見越した価格設定にしていることは言うまでもありません。
価格の値上げをした飲食店で考えてみましょう。
値上げ額は販売数量に影響が出ない程度の端数の調整にとどめて、料理の質を上げたり量を増やすなど、新規顧客の獲得を狙った価格戦略になっていることでしょう。
いずれにしても、価格の見直しが販売数量にどの程度影響したのかを数字でしっかり検証すべきです。
・価格の変動が販売数量にどのくらい影響したか?
・その結果、売上高が何%変化したか?
これらを日にち単位、週単位、月単位で集計します。
月次決算の売上高を確認し、もし結果が悪ければ、価格戦略を再度見直さなければなりません。
御社では価格を5%変動させると、売上高はどのくらい変わりますか?
(2)価格を変えるときにはコストの見直しも行う
価格が変わると付加価値が変動します。
付加価値は、次の算式のとおりです。
付加価値 = 価格 ― コスト
コストが同じで価格を下げると、付加価値つまり粗利益が減ります。
コストが同じで価格を上げれば、粗利益が増えます。
したがって、価格を変えるときにはコストの見直しが必須です。
特に、売上原価である仕入値が利幅を左右します。
昔から「利は元にあり」と言うように、良い商品を安く仕入れることができれば儲かるというわけです。
仕入値や経費が増えた結果、やむを得ず値上げを決断した会社もあるでしょう。
しかしそうではなく、既存の商品・サービスに新たな経費をかけて戦略として価格を上げたことで、付加価値を増やす会社もあります。
値下げを戦略を行った会社では、販売数量を増やすだけでなく、仕入値を抑えて利幅を確保しているでしょう。
営業戦略上、儲けを削ってシェア拡大を優先するケースも見られます。
いずれの場合も、価格を変えたら、月次決算で粗利益額の変化を検証します。
このとき、粗利益額だけでなく、粗利益率も計算します。
粗利益率 = 粗利益 ÷ 売上高
粗利益率を前月、前年同月と比べてみて、商売の利幅が確保されていることを検証します。
御社が毎月確保すべき粗利益額はいくらですか?
(3)価格変更に必要な経費に対するコストパフォーマンスを検証する
価格を変えるときは、変更に伴う経費が発生します。
値札の付け替え、チラシや広告の作り直し、ウエブサイトのデザイン変更、事務コストや広告宣伝費など、いろいろとあることでしょう。
経理に指示して、毎月の固定費とは別に、価格変更で発生した臨時の費用について数字で把握しておきます。
残業やパート・アルバイトの増員などが発生した場合、人件費の増加分も確認しておきましょう。
変更に伴う費用を集計して、価格変更前の段階で見込んだ予算の範囲内に収まっていたかどうかを計算します。
価格変更した月の月次決算では、販売費及び一般管理費の増加分を確認したうえで営業利益の結果を見ます。
予算で立てた営業利益の金額と比較して、プラスでしょうか? マイナスでしょうか?
予定どおりにならないのが経営です。
もし経費が予算オーバーになっていたら、その原因を確認して問題点を整理しておきます。
経費をいくら使ったら販売数量がどれだけ増えたのか、増大した付加価値の金額を確認してコストパフォーマンスも計算しておきましょう。
価格変更する際に、何にいくら使ったのかを集計して記録しておくと、社内で次に何かを変更するときの予算の立て方がうまくなります。
御社の予算達成率は何%ですか?
価格を変えたら、売上、粗利益、営業利益を必ず点検する
価格の表示方式を変更するだけで、会社の業績は変動します。
変更したらそのままにせず、必ず結果を数字で確認します。
今回説明したように、価格を変更した月の月次決算では、次の3つを必ず検証するようにしてください。
①販売数量と売上高
②粗利益額と粗利益率
③追加経費と営業利益
社長は月次決算で結果の数字を見て、予算どおりにならなかった原因を考え、すぐに次の手を打つようにします。
他社の動きも見ながら、営業戦略を練り、価格を再設定し、販売数量を予測して、仕入値を交渉し、経費の使い方を見直します。
御社は、価格をどのように決めていますか?
【資料参考文献】
NTTドコモ【報道発表資料】
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