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- 北村森の「今月のヒット商品」
- 第14話 クラウドファンディングで始める、挑戦的ものづくり
今回は、いつもと色合いがちょっと違うコラムになること、お許しください。
まず、「ヒットしている」というよりむしろ「これからヒットさせる」商品の話であること。それと、私、北村自身が直接にものづくりを手がけている案件であることもご了承いただければと思います。
全国各地の小さな実力派事業者をピックアップして、それぞれの事業者に「そんなこと、本当に実現できるの?」と思われるような商品づくりを提案し、実現までこぎつける、というプロジェクトです。つまり、私自身も、責任を有するプレーヤーであるということ。
その舞台は、みなさんご存知のクラウドファンディングです。
クラウドファンディングといえば、市場規模が1000億円を窺うほどの成長ぶりで、主要なクラウドファンディングサイトだけでも、今や100は超えます。
その一方で、日本国内でクラウドファンディングが立ち上がった2011年当初に比べると、その中身にかなり格差が出てきた印象です。本来は、事業者や個人が持つ先鋭的なアイデアを、多くの人による少額の投資によって実現させる、というのが眼目であったはず。ところが最近では、(もちろん、今も挑戦的な事案も多々ある半面)、どうもおとなしい内容の案件が散見されます。思わず惹き込まれるような突飛なプランではないものも少なくない。
そう感じていたさなか、日本経済新聞社のクラウドファンディングサイト「未来ショッピング」から、私に声がかかりました。
そのミッションは至極単純なものでした。「地方の“小さいけれど強い事業者”を10ほど集めてほしい。そして、事業者を集めるだけでなく、みんなが『おっ!』と声を上げるような商品を作るための提案と開発支援までもしてもらいたい」。
これは、受けて立つしかないですね。私、これまでも、地方の企業者の商品開発を手伝ったり、自治体などと連携して地域おこし事業を支援したりしてきましたが、いわば、その集大成として、この仕事に力を注ぐことを決めました。
このプロジェクト、「未来ショッピング」のなかで展開する特集企画として、「NIPPON PRIDE with ものめぐり」と名付けられました(「ものめぐり」というのは、私の会社名です)。そして、10の事業者のうち、8月末に、第一弾として2つの案件を公開しました。
まず、ひとつめ。静岡県掛川市にある福田織物の案件です。
福田織物は、凄腕の町工場として知る人ぞ知る存在です。ここで織られる綿織物は、日本国内はもとより、欧州のラグジュアリーブランドが直接取引するほどの品質を誇ります。なぜか。文字どおり、「世界でここでしか織れない生地」があるからなんです。
「300番手単糸」と呼ばれる、数年に一度採れるかどうか、という超極細の綿糸があるのですが、福田織物はそれを見事に織ることができます。聞けば、それを果たせたのは、今のところ福田織物だけらしい。
その生地、私も触ったことがあるのですが、もう「春風をまとっているよう」としか言いようのない、ふんわりとした軽い出来上がりです。福田織物は、それを、女性向けのストールとして限定販売しています。値段は10万円!(それでも儲け度外視の価格のようです)。
で、私は今回、福田織物に提案しました。
「この300番手単糸の奇跡的な織物、ストールにするだけではもったいない」と……。では、何に使うか。
ブランケットです。この肌触り、裸のままでまとって寝たら、どんなにすごい寝心地になるだろうかと思ったからです。軽くて優しくて、極上のものになるに違いない。
福田織物の社長は、すぐさま気色ばんで言いました。
「そんなことしたら、バチが当たります!」
でも、実行しましたよ。社長はそのあと、「……でも、寝てみたいなあ」とつぶやきました。
試作を重ねたのち、ストールに使って残った部分を生地に用いて、ブランケットは完成しました。
もうひとつ。
こちらはチーズです。北海道札幌市にあるファットリアビオ北海道の手になる、「羊の乳を使ったリコッタ」。
ファットリアビオは、2013年に立ち上がった、北海道ではいわば後発組のチーズ工房なのですが、イタリアから移住したチーズマスターの作るチーズは業界内外から極めて高い評価を受けていて、例えばJALのファーストクラスや、パーク ハイアット 東京など、名だたるところが仕入れるほどの実力派です。
私、このチーズマスターがやり残していることがないか、しつこく尋ねました。最初は「もうすべてをやり尽くせている」という返答だったのですが、粘り強く聞いていったら、「実は……」となった。
チーズマスターは、部下たちに対して時折、ぼそっと漏らしていたというんです。「羊の乳で作ったリコッタを、一度でいいからみんなに食べさせてあげたい」。
日本国内で作られるリコッタのほとんどは、牛乳由来なのです。羊の乳は、購入しようと思うと、牛乳のざっと30倍の値段ですし、そもそもほとんど流通していない。それに、もし仮に、本場イタリアから羊の乳のリコッタを輸入したとしても、リコッタは鮮度が命ですから、どうしても味は落ちる。
だったら作ってしまいましょう、というのが、今回の提案でした。
北海道内で羊の乳を探し求め、ようやく仕入れに成功。試作現場に私も立ち会いましたが、出来上がった羊の乳のリコッタは……実に艶かしく、官能的としか言いようのない香りをたたえていました。
「NIPPON PRIDE with ものめぐり」では、これからも続々、チャレンジングな案件を公開していく予定です。