女性や子供向け商品を製造販売している会社の社長さんと、結婚式で同席する機会があった。
入場からお開きまでピッタリ3時間。その間のスピーチは新郎側、新婦側それぞれ一組ずつ、
お色直しもなしという、スッキリしたものであった。
聞けば、そのホテルがこれからの披露宴のあり方として提案、新郎新婦側も受け入れたことから
実現したとのことだったが、おかげで料理も楽しめたし、その社長や周りの人との会話も弾んだ。
その中でどういうわけか、≪男のこだわり≫といった方向に話題が移り、くだんの社長は、
次のように発言した。
「この20年間を振り返ってみて、どういうわけか、過去にこだわった時ほど商売が上手くいかない
ことに気づいたんです。
過去のヒットにこだわり、その延長線上に商品を出してみてもうまくいかないんですね。
ところが、こだわりを捨てた商品となると不思議なほどに売れる。
たしかに、若い女性や子供が対象といった特殊性はあるのでしょうが、とにかく、
こだわりというか過去のイメージを断ち切るとうまくいくんですよ」
「つまり、女性や子供ははこれが好きなんだ、という直感を信じて最終的には結論を出すわけですが、
ある意味では冒険ですからね。勇気がいりますよ」
成功の秘訣は、こだわりを捨てたところにある。
本田宗一郎氏はいう。
「私は何かことをなしてしまうと、過去をみんな忘れる。
現在から未来へしか手を伸ばしていないんです。
だから、いつも過去というものはしょっていないんですよ…」
あるいは、オーソン・ウェルズの映画『第三の男』のラストシーンではないが、
男は後ろを振り返るなということであろう。
この「こだわりを捨てる」は、実はビジネス社会ではとても大切になる時がある。
転勤で新しい支店を任されたり、関連企業の別法人へ赴任するときなどは、ポイントといえる。
よく、第二の職場や転出先になじめないという人がいるが、そういう人は得てして、
“以前はこうやっていた”という人に多い。
とくに、実績を上げ、ひとかどの人物といわれる人になじめない人が多いのは、
過去へのこだわりが捨て切れないからだ。
過去の経験や実績を、一度きれいさっぱりと忘れること。
まっさらなところで吸収しよう、学ぼう、という姿勢を示すこと。
新天地でスタートするときの心得としたい。