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第22話 地味だけども進化させる意味

北村森の「今月のヒット商品」

4月20日、パナソニックが、衣類スチーマー「NI-FS750」を発売しました。実勢価格は約1万3000円です。

 

衣類スチーマー、ご存知ですか。衣服をハンガーに吊るしたままの状態で、そこに本体から噴き出るスチームを当ててやると、シワを綺麗に伸ばせるという家電商品です。アイロンがけって、かなり大変じゃないですか。コツも要りますし、手馴れた人がかけても、アイロンによって、かえって余計なシワが入ってしまったりしてイライラさせられます。衣類スチーマーの場合、誰がやってもまずうまくいきます。吊るした状態の衣服に、ただスチームを吹きかければいいだけですからね。

 

この便利さが消費者の共感を呼び、衣類スチーマーの市場は、ここ5年間ほどで実に10倍規模まで伸びているといいます。こうした、一見地味な分野で、かつ、さほどその先に進展がないだろうと思われていた成熟商品が、なぜか急遽ヒットしたというのは、なんとも面白い話です。

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市場規模が5年で10倍までに伸びたきっかけを作ったのは、パナソニックでした。2014年初に、同社は初めて「男性向け」と銘打った衣類スチーマー「NI-FS350」を登場させます(すぐ上の画像の左側が、2014年発売の「NI-FS350」、そして画像の右側が今年4月発売の「NI-FS750」です)。

 

この「NI-FS350」は、2014年に発売となるやいなや、品切れ続きの思わぬヒットを記録しました。おそらく「男性向け」というところがミソだったのでしょうね。アイロンをかける手間なく、シュッとスチームを噴きかけるだけでいい。しかも、既存の衣類スチーマーと違って、5分間連続でスチームを噴き出し続ける(既存商品はもっと短かったし、スチームの量も少なかった)というところを、消費者は見逃さなかったのでしょう。

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今回発売になった新モデルと、2014年のモデルを比べてみました。

試してみたのは、男性用ジャケットのそで。それと、男性用ズボンの膝の裏です。どちらも、1日も着れば、いやなシワがつくじゃないですか。しかもそのままだと、すごくみっともない。

結論を言いますと、新モデルでも、2014年のモデルでも、両方の機種で、何のシワも、ものの10秒程度でほぼ綺麗に取れました。繰り返しになりますが、衣類をハンガーに吊るした状態で使う商品なので、アイロン台は全く不要ですし、さしたる手間も要りません。

だったら、新商品を出す意味はないのでは? 古いモデルでもシワがちゃんと取れたのだから。

いや、ごくわずかながら使う人にストレスがかかりそうな部分を、新モデルではうまく解消してきていました。

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まず、電源を入れてから立ち上がるまでの時間が、今回実際に試した限りでは、新モデルでは10秒程度短かった。

 

また、これが一番大きなポイントかと思うのですが、本体に注水する際(スチームを噴き出すわけですから、スチームアイロンなどと同様に、使う前にまず、本体に水を入れます)、その注水量が新モデルでは2倍(100ml)となりました。その恩恵で、スチームを続けて噴射できる時間が8分間に伸びました。1着2着に使う分にはどうってことない仕様変更ですが、何着もまとめてシワ伸ばしする場面で、これは助かるでしょう。

 

そしてもうひとつ。スチームが「面」で噴射されるようになっていました。2014年のモデルでは、直線上に5つの穴から噴き出ていたのですが、新モデルは放射状に6つの穴があり、広い範囲でスチームを噴射します。これは使ううえでラクです。

 

つまり……それこそ地味に見えるような箇所を、丁寧にリファインしてきているのですね。

 

こうした点から感じ取れる教訓が2つある、と私は思いました。

 

まず、商品をリニューアルする際には「変えるところと変えないところをしっかり峻別すること」。今回の事例で言えば、細部の使い勝手は変えましたが、基本形状と操作体系はいじっていない。これ、大事と思います。なぜか。

 

「一度成功したブランドにとって大切なのは、みずからのブランド価値を信じること」にあるからです。衣類スチーマーは急激に伸びた商品分野で、ライバルメーカーも増えてきました。しかし、だからと言って、浮き足立っていたずらに何かを変えればいいというものでもないんですね。みずからの価値を信じる、とはそういうことです。

 

これって、何も家電分野に限った話でも、大手メーカー同士の商品競争に限った話でも決してない、と私は感じています。

 

今回の衣類スチーマー……。確かに地味な分野の地味な進化だけれども、仔細に見ていくと、今お伝えしたような重要な意味を読み取れる気がしました。

 

 

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