スーパーやコンビニをはじめ、無人レジを導入する店舗が増えてきました。導入の狙いはどこにあるのでしょうか。また、私たちの仕事や生活に、どのような影響があるのでしょうか。
ニッセイ基礎研究所の金融研究部主任研究員の福本勇樹氏にお話を伺いました。
(※本コラムは2020年2月号ビジネス見聞録に掲載したものです)
●主役はバーコードからICタグへ
――「無人レジ」と一言で言っても、その方式はいろいろあるようです。未来を読み解くために、私たちは、どんなポイントから「無人レジ」を眺めればよいのでしょうか。
「まず、どんな無人レジがあるのか整理しておきましょう。通常無人レジは「セミセルフレジ」と「セルフレジ」の二つに分類されます。
「セミセルフレジ」は、バーコードの読み取りなどは店舗が行い、精算だけを顧客が行います。それに対して「セルフレジ」は、バーコードの読み取りから支払いまで、全て顧客が行います。
商品の識別については、現在は、バーコードを使うことが一般的ですが、近い将来、RFIDと呼ばれるICタグを使った認識方法に主役の座を奪われるかもしれません。
ICタグには価格、サイズ、色をはじめ、さまざまな情報が書き込まれています。それが商品一つ一つに取り付けられるのです。
離れたところからでも読み取りが可能であり、買い物かごに複数の商品を入れたままであっても、まとめてセンサーの下をくぐらせるだけで、合計点数や合計金額がでてきます。
RFIDを効果的に使っている例として、よく取り上げられるのがファーストリテイリング社(ユニクロ)です。同社は、工場からの出荷段階でICタグをつけています。
それによって、各商品が倉庫にあるのか、物流の拠点にあるのか、それとも、小売店にあるのかが瞬時に追跡できるので、在庫管理や棚卸の作業が効率化されます。
レジ前の行列も早く捌けるようになったそうです。店頭に来た顧客が、選んだ商品をかごに入れたまま、清算用のボックスに入れると、料金は自動的に計算されます。バーコードのように商品を読み取らせる作業は不要です。
もし、精算しないまま店の外に出た場合には、タグに反応してブザーが鳴るなどの対応ができるので万引き防止にもつながります。
RFIDについては政府も着目しています。
例えば経済産業省は、2017年にセブン‐イレブン、ファミリーマート、ローソン等、コンビニエンスストア各社と2025年までに全ての取扱商品(推計1000億個/年)にICタグを利用する「コンビニICタグ1000億枚宣言」をしました。
また、日本チェーンドラッグストア協会は「ドラッグストア スマート化宣言」を策定しました。2019年にはメーカーから卸売、小売店、家庭まで一気通貫で情報共有ができるかどうかの実証実験が行われました。
うまく機能すれば、過剰供給に起因した食品ロスなどの問題の解決につながることが期待できます。
●冷蔵庫の中身もチェックしてくれる
――無人レジのポイントはRFIDなのですね。これが広く普及するとどのような世界がやってくるのでしょうか?
「卵を例に説明しましょう。ICタグが普及する頃には、国も後押ししているIoT家電も一般的になっているかもしれません。
スーパーで購入した卵をIoT搭載の冷蔵庫に入れれば、冷蔵庫の中のセンサーが卵の消費期限、産地、個数などを読み取ります。
このようなデータをスマートフォンに送信して、冷蔵庫内の在庫を外出先でも確認できるようになれば、家庭でも無駄な買い物を減らすことができるようになるでしょう。
データを共有することで、各家庭の冷蔵庫内に保存されている卵の数量と、スーパーやコンビニの店頭にある卵の数量、つまり、その地域全体の卵の数量を知ることができます。
どの地域の卵が不足していて、どの地域は余っているのかがわかるようになれば、サプライヤーは、それぞれの地域の需要予測に応じて商品を供給するといったこともできるようになるでしょう。
このように、流通に関するデータを家庭内のものも含めて共有することは食品ロスを減らすことにつながります。
また、冷蔵庫に卵がない顧客や冷蔵庫内の卵の消費期限が過ぎている顧客には、スーパーの近くを通った時に、顧客のスマートフォンなどに「卵がありませんよ」「卵の消費期限が過ぎていますよ」などの情報も含めてターゲティング広告を送ることで購入を促進するようなこともできるようになるかもしれません。
ただし、このような利便性が期待できるのは、あくまでもICタグが商品に貼付された状態で機能できている間だけです。
例えば、家庭内でICタグをはがしたり、電子レンジの使用などでICタグが破壊されたりすると、このような利便性は享受できなくなります。
1
2