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ビジネス見聞録

今月のビジネスキーワード「無人レジ」

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スーパーやコンビニをはじめ、無人レジを導入する店舗が増えてきました。導入の狙いはどこにあるのでしょうか。
また、私たちの仕事や生活に、どのような影響があるのでしょうか。
ニッセイ基礎研究所の金融研究部主任研究員の福本勇樹氏にお話を伺いました。





 

●主役はバーコードからICタグへ

――「無人レジ」と一言で言っても、その方式はいろいろあるようです。未来を読み解くために、私たちは、どんなポイントから「無人レジ」を眺めればよいのでしょうか。

 
 「まず、どんな無人レジがあるのか整理しておきましょう。通常無人レジは「セミセルフレジ」と「セルフレジ」の二つに分類されます。「セミセルフレジ」は、バーコードの読み取りなどは店舗が行い、精算だけを顧客が行います。それに対して「セルフレジ」は、バーコードの読み取りから支払いまで、全て顧客が行います。
 
 商品の識別については、現在は、バーコードを使うことが一般的ですが、近い将来、RFIDと呼ばれるICタグを使った認識方法に主役の座を奪われるかもしれません。
 ICタグには価格、サイズ、色をはじめ、さまざまな情報が書き込まれています。それが商品一つ一つに取り付けられるのです。離れたところからでも読み取りが可能であり、買い物かごに複数の商品を入れたままであっても、まとめてセンサーの下をくぐらせるだけで、合計点数や合計金額がでてきます。 

 RFIDを効果的に使っている例として、よく取り上げられるのがファーストリテイリング社(ユニクロ)です。同社は、工場からの出荷段階でICタグをつけています。それによって、各商品が倉庫にあるのか、物流の拠点にあるのか、それとも、小売店にあるのかが瞬時に追跡できるので、在庫管理や棚卸の作業が効率化されます。

 レジ前の行列も早く捌けるようになったそうです。店頭に来た顧客が、選んだ商品をかごに入れたまま、清算用のボックスに入れると、料金は自動的に計算されます。バーコードのように商品を読み取らせる作業は不要です。もし、精算しないまま店の外に出た場合には、タグに反応してブザーが鳴るなどの対応ができるので万引き防止にもつながります。

 RFIDについては政府も着目しています。例えば経済産業省は、2017年にセブン‐イレブン、ファミリーマート、ローソン等、コンビニエンスストア各社と2025年までに全ての取扱商品(推計1000億個/年)にICタグを利用する「コンビニICタグ1000億枚宣言」をしました。また、日本チェーンドラッグストア協会は「ドラッグストア  スマート化宣言」を策定しました。2019年にはメーカーから卸売、小売店、家庭まで一気通貫で情報共有ができるかどうかの実証実験が行われました。うまく機能すれば、過剰供給に起因した食品ロスなどの問題の解決につながることが期待できます。」
 

●冷蔵庫の中身もチェックしてくれる

 ――無人レジのポイントはRFIDなのですね。これが広く普及するとどのような世界がやってくるのでしょうか?

 
 「卵を例に説明しましょう。ICタグが普及する頃には、国も後押ししているIoT家電も一般的になっているかもしれません。スーパーで購入した卵をIoT搭載の冷蔵庫に入れれば、冷蔵庫の中のセンサーが卵の消費期限、産地、個数などを読み取ります。このようなデータをスマートフォンに送信して、冷蔵庫内の在庫を外出先でも確認できるようになれば、家庭でも無駄な買い物を減らすことができるようになるでしょう。
  
 データを共有することで、各家庭の冷蔵庫内に保存されている卵の数量と、スーパーやコンビニの店頭にある卵の数量、つまり、その地域全体の卵の数量を知ることができます。
 どの地域の卵が不足していて、どの地域は余っているのかがわかるようになれば、サプライヤーは、それぞれの地域の需要予測に応じて商品を供給するといったこともできるようになるでしょう。
 
 このように、流通に関するデータを家庭内のものも含めて共有することは食品ロスを減らすことにつながります。
 また、冷蔵庫に卵がない顧客や冷蔵庫内の卵の消費期限が過ぎている顧客には、スーパーの近くを通った時に、顧客のスマートフォンなどに「卵がありませんよ」「卵の消費期限が過ぎていますよ」などの情報も含めてターゲティング広告を送ることで購入を促進するようなこともできるようになるかもしれません。ただし、このような利便性が期待できるのは、あくまでもICタグが商品に貼付された状態で機能できている間だけです。例えば、家庭内でICタグをはがしたり、電子レンジの使用などでICタグが破壊されたりすると、このような利便性は享受できなくなります。」
 

●普及のポイントはICタグの価格

 ――無人レジを普及させていく為に解決すべき課題は?

 
 一つはICタグの価格の問題です。現在はICタグ1枚あたりの価格は、10円から20円程度だと言われています。商品単価の低い商品に貼付するのは、コスト面で非現実的だと言えるでしょう。経産省の「コンビニICタグ1000億枚宣言」でも、 ICタグの低価格化がロードマップの中で掲げられており課題認識されています。
 
 二つ目は、ITリテラシーの問題でしょう。無人レジを操作するのは顧客なので、中にはうまく使えない人もでてきます。特に、IT機器にほとんど触れたことがない高齢者などにとっては使用が困難かもしれません。そこで、横についてやり方を教えるサポート要員、言いかえれば顧客に対する教育係が必要になってきます。つまり、無人レジの導入で従業員に対する教育コストを削減できますが、今度は顧客に対する教育コストが必要になるわけです。
 
 三つ目は、キャッシュレス化でしょう。 買い物情報を取り込む無人レジは、 店舗と顧客を繋ぐプラットフォームの役割を果たします。キャッシュレス化が進めば、顧客に関するデータと購買履歴データを正確にかつ効率的に紐づけることができるようになり、それを製造業者から物流会社、小売店などでビックデータとして共有することも可能になります。ところが、国際的に見ても日本のキャッシュレス化は遅れています。
 
 日本のキャッシュレス化が遅れている一つの原因は、 ATMがいたるところにあって、現金決済に困らないことが挙げられます。 必要な時にいつでもお金をおろすことができるし、「現金お断り」の店舗もほとんどないため、わざわざ現金以外の決済手段を持つ必要はなかったわけです。
 また、 現金を持ち歩いても強盗に遭う心配がないという治安の良さも、キャッシュレス化の遅れにつながっています。もっとも、海外でも、完全にキャッシュレス化が浸透しているわけではありません。低所得者を中心にクレジット・カードや銀行口座を持つのが難しい人がいるためです。もし、「現金お断り」の店舗ばかりになれば、低所得者が排除されてしまうことが懸念されます。ニューヨークにある「Amazon GO」は、無人店舗であっても社会的な要請で現金を取り扱っています。
 

●無人レジで行列のストレス解消

 ――実際に無人レジを導入、あるいは検討している店舗の目的は何でしょうか。

 
 大きく分ければ、「レジ業務の効率化」「衛生面の対策」「人手不足への対応」の三つに絞られるのではないでしょうか。
 人口の多い地域では、夕方や週末にはレジの前に長い行列ができることはよくあります。行列は顧客のストレスだけではなく、従業員のストレスも高めます。急がなければというプレッシャー、お釣りの間違いや現金紛失の心配などがあるからです。レジ業務をやりたくないと敬遠する従業員も少なくないようです。そのため、顧客の待ち時間を少なくすることに加え、従業員満足度を向上させる観点からセルフレジを導入するところもあります。
 
 飲食店や食品を扱う店舗では、衛生面での対策という観点も加わります。日本では海外に比べて紙幣や硬貨は清潔な状態が保たれていると思いますが、レジで従業員が現金を触っていると、やはり不衛生に見えてしまうのは否定できません。

 最も多い動機は、言うまでもなく人手不足問題を解消するためです。セルフレジにすれば、レジ業務の担当者を別の業務に配置転換したり、スタッフ数を減らしたりできます。合わせてキャッシュレス化に取り組むことで、お金を数えたり、レジに打ち込まれた売上と合っているのか確かめたりするレジ締めの作業時間が大幅に短縮されます。ある大手レストランでは、30分かかっていたレジ締めの作業が、キャッシュレス化によって数分にまで短縮しました。
 
 

●無人レジはチャンスロス?

 ――無人レジが向いている店舗、向いていない店舗というのはあるんでしょうか。

 
 ありますね。まず、一見客が多い店は無人レジには向いていないと思います。 無人レジは色々な方式があるので、頻繁に訪れることのない顧客は、その使い方を覚えることに躊躇するのではないでしょうか。いつまでたっても 、無人レジの使い方をサポートする担当者が必要になり、業務効率化の効果が限定的になります。それに対して近所のスーパーなどリピーター客が多い店舗では、顧客の大半が無人レジの使い方をマスターすることが想定されるので、無人レジの導入は効率化に結び付きやすいでしょう。
 
 一方で、顧客対応の時間を確保する観点で無人レジの導入を渋るケースもあるようです。お金のやり取りは顧客とのコミュニケーションをとる大切な時間になっていて、そこを効率化してしまうと大きなチャンスロスになるというわけです。一方で、無人レジの導入によって、使い方を説明するなどで顧客サポートの時間が増えると捉えている方もいるようです。商品、地域、店の規模などの組み合わせによって、顧客のロイヤルティ向上のために最適解は変わってくるのはないかと思います。
 
 最も影響するのは企業規模ではないでしょうか。無人レジの導入にはそれなりのコストがかかるからです。大企業の場合は、 そのコストをカバーできるぐらいに業務効率化や生産性向上が期待できます。さらに、購買履歴のデータなど収集したビッグデータをマーケティングなどに活用することもできるでしょう。それに対して中小企業は、そもそも従業員の人数も少なく、事業の規模も大企業に比べて小さいので、人件費削減や生産性向上の効果は相対的に小さくなります。例えば、家族経営の小さな店では、人件費の削減は難しいでしょう。顧客のほとんどが近隣の顔見知りばかりなのであれば、顧客の購買履歴を高額なコストをかけて分析してもあまり意味がないのかもしれません。顧客の方も顔見知りの店主に自分の消費行動を知られたくないといった感情もあるかもしれません。中小企業にもメリットを享受できるような解決策を提示していくことが、日本全体でICタグの普及やキャッシュレス化を進めていくための今後の課題でしょう。
 
 ICタグの事例ではありませんが、中小企業のレジの無人化・キャッシュレス化の成功例としては、ベーカリー用のシステム「ベーカリースキャン」が有名です。ベーカリーの業界ではパンの種類が豊富なほど売上が上がるそうですが、レジ係の従業員は多くのパンの名前や価格を覚える必要が出てくるため、パンの種類や価格を教育するコストが問題になります。ベーカリースキャンのセンサーは、トレーにある数種類のパンを識別して、それぞれの価格を画面上に提示できるので、従業員の教育コストだけではなくレジ作業の効率化も期待できます。また、値札を貼るためのパンの袋詰め作業も削減できるし、従業員がお金を触った手でパンに触れることもなくなるので衛生面の問題も解決できます。
 
 

●レジは情報収集のツール

 ――最後に、これからのレジの役割を教えてください。

 
 AIやIoTなどの進化によって、ビッグデータの利活用の可能性が広がり、データの重要性は高まってきました。こうした時代の要請からICタグを利用した無人レジやキャッシュレス化に対する期待が膨らんでいます。
 
 レジのキャッシュレス化が進めば、レジを通じて、誰がどこで何をどの程度購入したのかという正確なデータを集めることが容易になります。近い将来は、集めたデータを自社のマーケティング施策として活用するだけではなく、データそのものやデータ分析結果を他社に売却することで収益を得られるように環境が整備される可能性もあります。

 もちろん、顧客サイドから見ると個人情報が容易に集められることを懸念する人もいるでしょう。データ活用について顧客に理解を求めていくことも重要になってくると思います。(聞き手 カデナクリエイト/竹内三保子)
 
 
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福本 勇樹(ふくもと ゆうき)
金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社。2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社。 2018年7月より現職
【加入団体等】日本証券アナリスト協会検定会員
 
 
※本コラムは2020年2月号「ビジネス見聞録」に掲載したものです。

 

 

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