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第五十七話 「寝てる間も考えるくらいでないと、考えてるとは言わん」(京西陣 菓匠宗禅)

社長の口ぐせ経営哲学

京都の町家(築120年)で、せんべい・あられの製造販売を行っている
「京西陣 菓匠宗禅有限会社」(京都市上京区)は、独自の商売を展開して評判を呼んでいる。
あられ屋として4代目の山本佳明社長(35歳)は、おかき屋をはじめ、西陣織の修行を積み重ねて、
「どんな時代でも本物を作っていけば、必ず生き残れる」という経営方針を学び、実践している。


“せんべい作りの体験”を積極的に行うと同時に、段階的に顧客との距離を縮める独自の販促手法である
「4段階のDM」を 実施している。一度だけの来店が多い観光客の常連客化を成功しているのである。
この4段階のDM戦略で獲得している通販のリピート客は約4500人。来店してくれる人で1200人、通販の利用者が
3300人、2年間で売り上げが1.7倍にも伸びている。観光地でもリピート客を獲得している珍しいケースである。


独自のDMは、送る時期や内容に工夫がなされ、入会金、年会費無料の「倶楽部 西陣」に入会してもらい、
その後、約1か月半の間に4回のDMを送付するというもの。
一回目は商品チラシを入れず、商品購入のお礼状と同社の別商品「ぶぶあられ」を送る。
二回目に2週間後、会員限定の“秘密の特典”として、オリジナル便箋のプレゼント、顧客の声を集めたA4チラシを送る。

三回目は3週間後、同店周辺の観光スポットの案内図と、手焼き・焼き立てにこだわる理由を書いたチラシを送る。
“また西陣へ遊びに行きたい”という気持ち にさせる。四回目は初購入から1ヶ月から1ヵ月半後に、初めて商品チラシを送る。
この4段階を経ることで顧客との距離が確実に縮まり、商品PRがより心に響くという考えを持っている。
この4段階のDMも少しずつ内容を変え、進化している。


山本社長は祖母から「男として生まれてきたからには、何か文化を残せ」と教わった。「文化」という二文字に挑んだ。
だ から、店舗の改装の際も、「町家しかない」という信念を変えなかった。
西陣の町を歩き回り、町家探しを始めて開業している。本物の技・味を継承するという ものの一つが“文化”と捉えている。


こだわった商売、文化を伝承する商売は、本物を追及する商売でもある、という考えを持つ。
DM戦略一つにしても、自分達で生み出した独自の方法である。
山本社長は社員に「寝てる間も考えるくらいでないと、考えてるとは言わん」と檄を飛ばす。
一度きりになりがちの観光客を常連客に育てている経営戦略はリピート客づくりの勘所を掴んだ商売である。
現場が生み出した新しい販売促進術である。

 

                                                             上妻英夫

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