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- 社長の右腕をつくる 人と組織を動かす
- 第160回 『「自分にしかできない」に育てていく』
誰にでもできるスキルやテクニックをもっているだけの
「フツーの人」なら、重用はされない。
組織は、そんな人は幾らでも替えがあると見なすからだ。
「余人をもって替え難し」といわれるような、
代替が利かない存在にならなければ、
いつまでたっても「サラリーマン」から抜け出せない。
「オリジナリティを身につけたスペシャリストにならなければ」
というと、
あわてて資格試験の案内書を取り寄せる人がある。
むろん、特別なスキルやテクニックを体得し、
スペシャリストを目指す道もある。
だが、どんな仕事でも、
なんらかの部分で誰にも負けないものをもつようにすれば、
立派なスペシャリストになれるのだ。
JR山形新幹線の車内でお茶やお弁当を移動式ワゴンに乗せて売る
齋藤 泉さんは、その一人であろう。
彼女は、東京~山形間の片道約3時間で、
他者の3-4倍、26万円強を売り上げるカリスマ販売員だ。
24時間営業のコンビニの平均売上は、一日40~60万円というから、
彼女の数字の素晴らしさは、これと比べればよくわかる。
齋藤さんは、仕事開始30分前に、
自分のビジネスステージであるワゴンのディスプレーを始める。
寒い日ならホットコーヒーを多めに。
車内に乗り込むまでの数分間、列車に乗り込むお客様をつぶさに観察し、
客層、すでに弁当を手にしている割合などを素早くチェックする。
それに基づき、弁当の数を調整する。
修学旅行生や家族連れが多ければ菓子を前面に出し、
会社員の出張風が多ければ、ビールやつまみを増やす。
通路のどちら側からも見やすいように、ディスプレーは左右対称を心掛ける。
発車後、最初の一往復で、7両編成・400人の顧客をだいたい頭に入れてしまう。
この時、ワゴンの方をチラッと見たお客様には、
次に通りかかったときに、「お飲み物はいかがですか?」と声を掛ける。
これで大体は、「じゃあ、ビール」となる。
それでも迷っている場合は、お客様の目をのぞき込む。
これで、ほぼ100%《お買い上げ》に導ける。
さらに、500円から10円まで、四種の硬貨を指先で識別できるまでになっていて、
そのため、お釣りを渡す時間も速くなるので、
普通の販売員なら片道3往復がギリギリなのに、彼女は5往復もするというのだ。
背後のお客様の「弁当が欲しい」の視線も感知できるまでになっており、
研ぎ澄まされた感覚を、プロの棋士にたとえる人もあるほどだ。
車内販売は、一見、誰がやっても大差ないように考えられがちかも知れない。
その仕事でここまでの結果を出す人ほど、プロ中のプロなのである。
「社内専門家」という人がいる。
どこでも通用する「得意ワザ」を身につけた人がいる。
「相場の立つプロ」とは、後者のことである。