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故事成語に学ぶ(41) 智者の慮は必ず利害を雑(まじ)う

指導者たる者かくあるべし

 一面的にものごとを見るな
 あらゆるものごとには、「利益」(役に立つ)的側面と「害」(害悪となる)的側面がある。〈智恵あるリーダーは、ことに対処する際に、利害の両面を冷静に総合的にみて判断するものだ〉という意味だ。『孫子』の中で臨機応変の対応の重要性を説く「九変」篇にある。
 総合的判断の効用について、同書は「利益になる事柄を考えるときに害の側面を合わせて見るなら、その事業は必ず狙いどおりに達成できる。逆に害となる事柄でも利益的側面を合わせ考えるなら、無用な心配におびえることがなくなる」と解説している。
 利益にのみこだわって猛進すれば、隠されている害に足元をすくわれて、目標を達成できない。あらかじめ事業推進における負の側面への対策を立てておく必要がある。また害の側面ばかりに気を奪われていると、消極的対応しかとれず、隠されていたせっかくの利益享受の機会を取り逃がしてしまう。経営者なら「当たり前だ」と読み飛ばしてしまうかもしれない。

 ライバルの操縦に応用する
 きわめて当たり前のことに見えるが、よほど注意しないと、「利益に目がくらんだり、過度の慎重さで小さなリスクをも避けてしまったり」というのは、どうやら人の常である。いずれも冷静な経営判断に結びつかない。リーダーとしては失格となる。
 ところが、『孫子』の面白いところは、その先の記述にある。ライバルを動かすのに、人の弱点を戒めるこの原則は使える、というのだ。面白いから原文を添えて書いておく。
 〈この故に諸侯を屈する者は害を以ってし、諸侯を役(えき)する者は業を以ってし、諸侯を趨(はし)らす者は利を以ってす〉(諸侯=ライバルの意志を自国の意図の前に屈服させるには、その相手の試みの害悪ばかりを強調し、ライバルをわが事業達成のためにうまく使うには、損害を顧みないほど魅力的な側面を強調し、ライバルを支配下において走りまわらせるには、害の側面を隠して利益ばかりを強調する手を使うのがよろしい)
 
 口車に乗せられることなかれ
 なんともはや、「生き馬の目を抜く」とはこのことか。国の存亡をかけた戦国時代の兵法書であるから極端な表現だが、現代のビジネスでもその一端は行なわれているだろう。
 新製品、新技術の開発で他社に一歩先んじられているとする。先に世に出されては自社の存亡に関わる。となれば、「いやぁ、うちもそれを開発していますがね、ちょっとリスクが大きいですね」と牽制して時間を稼ぐ。あるいは逆に、他社に先行させて、リスク具合を観察し、利ありと見てから事業を推進することもあるだろう。
 そうした悪意を推奨しているわけではないが、逆に考えてみればいい。異様におだててきたり、業界の会合で競合事業のリスクを強調するライバルがいれば、口車に乗せられる前に、冷静に利害を秤に掛ける知恵が必要ということになろうか。
 「強欲」と「小心」、ともに用心されたし。
 
  (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
※参考文献
『孫子』金谷治訳注 岩波文庫
『孫子』浅野裕一著 講談社学術文庫
 

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