今回も前回289号に引き続き、先月東京で開かれた第128回夏季全国経営者セミナーでお話しした「知のすり合わせ」についてお話しします。
「知のすり合わせ」を日本でしかできないといいましたが、そう考えた理由を欧米流のモノづくり経営と日本流のモノづくり経営を比較してご説明いたします。
まず使っている言葉ですが、例えば英語と日本語を比較してみます。
英語はYes, No が必ず最初に来て、結論がはっきりしています。そして必ず I とかYou といった主語があり、誰の責任であるのかが明確です。すなわちロジカルシンキングをするのに非常に便利な言葉だと思います。
そして、その言葉を使って社長がロジカルな戦略を作って、三段論法で部下にトップダウンでバシッと命令する…という、分かりやすいことができる言葉です。
一方、日本語の場合は結論が最初に来ることはあまりなく、最後まで聞かないと分かりませんし、最後まで聞いてもぼやっとしていることもあります。そして主語がなくても話ができますので、誰がやるのかをあまり明確にしません。
たとえば、 「わが社」という言い方で話が進むこともあります。 「わが社」という名前の人はいないし、だからといって自分でもないし、じゃあ、誰?といってもそこはまあまあ…といったことはよくあります。日本語はそこがとても曖昧です。
そこで日本語は経営に向いていない、英語の方がビジネスに向いている、という意見が出てきます。英語で話す奴らにはかなわない…、言葉を比較するとそういう気になりがちです。
しかし、’80 年代初頭の日本がモノづくりで世界を引っ張っていた頃、社長は英語を話していたでしょうか?
そんなことは絶対にありません、今と同じ曖昧な日本語を使っていたはずです。ではナゼ強かったのか?
私はまだ学生だった頃、新聞や雑誌などでホンダの本田宗一郎さんの白いつなぎ姿、ソニーの盛田昭夫さんのねずみ色の作業服姿をしばしば拝見し、製造業にあこがれておりました。
それから想像すると、当時の日本の製造業では、言葉は曖昧でも、みんなが現場で現物を前にしてわいわいがやがやと超具体的な仕事のやり方をしていたのだと思います。
「仕事の指示」について、欧米はトップダウンですが、対する日本はどうやっていたのでしょうか? トップダウンの反対だからボトムアップか?
私は違うと思います。ボトムアップだけで経営ができるはずがありません。日本の経営にも、必ず戦略のトップダウンはあります。ただトップダウンだけではないという、複雑な構造だと思います。
それは「おみこし」のようなものだと考えています。社長が従業員の担ぐおみこしの上に乗って、戦略に従って進む方向を大声で示す。そしてその直後に下を見て、バテてる人はいないか、バランスが崩れているところはないかと気を使い指示をします。
担ぐ従業員は欧米のように上だけを見ているのではなく、前後・左右・上下のすべてに目を向けて、隣同士励ましあい、ワッショイワッショイとみんなで声をそろえて前進します。
一人として遅れないように助け合い、力を出し合い、みんなが一緒に同じスピードで前進します。すなわちトップダウン、ボトムアップの上下の流れはもちろん、前後左右(フロント⇄バック、ライト⇄レフト)もあるのです。
欧米は社長の経営戦略を聞くと全体が分かりますが、日本の場合はそれに加えて「みんなでやろうぜ!」という社長の経営姿勢がありますから、かなり複雑ですが、強力です。
私はこれを「知のすり合わせ」という言葉で説明しています。みんなが全体最適で経営を支えるのが日本です。
しかし、日本人ならこの考え方を理解できますが、すべての日本の会社でそれができているかというと、残念ながらできていない会社の方が多いのです。
もちろんそれがすべてではありませんが、この社長の現場改善でもしばしば取り上げてきた「KZ法」や「チョコ案」のような具体的な改善のやり方は、「知のすり合わせ」だと思います。
ぜひともみんなで現場現物の「知のすり合わせ」を実行して、素晴らしいモノづくり経営を実践しましょう!
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