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決断と実行(3) 勝利から教訓を得る勇気

指導者たる者かくあるべし

  織田信長を天下人へ押し上げた桶狭間の合戦直前、低地の中島砦に兵を集めた若きリーダーは、目の前にせり上がる尾根続きの丘陵を見上げた。
 
 およそ1キロ先に今川軍の前哨の兵がちらちらと動くのが見えた。信長は判断した。そして兵卒に伝えた。
 
 「皆のもの、よく聞け。今川の兵は宵に腹ごしらえをして夜通し行軍し、大高城に兵糧を入れ、砦の攻略に手を焼き疲れ果てている。こちらは新手の兵だ。恐れることはない」
 
 信長の判断は誤っていた。兵糧を運び入れた家康麾下の兵は砦攻めのあと大高城に戻っている。目の前の敵は新手の兵だ。手ぐすねを引いて待ち構えていた。
 
 しかも後方の敵の本陣には十倍の敵がいる。さらに丘陵の下から上を少数の兵で攻めるのは孫子の兵法をひもとくまでもなく愚策だ。
 
 しかし、この時点で信長は今川本隊に勝てるとまでは考えていない。一撃して敵の前哨を崩せば、引けばいい。信長ここにありを敵に知らしめれば目的は達すると慎重だった。
 
 実際に、「敵がかかってきたら引け、敵が退いたら追え」と命じている。
 
 指揮官の誤判に導かれて兵卒たちは、勢い込んで丘陵の麓に取り付いた。敗戦必至であった。しかしここで異変が起きる。
 
 車軸を流すような豪雨が降り始めた。大木を押し倒すほどの暴風は信長の兵たちを押し上げるように背中から吹きつける。顔面に雨つぶてを叩き付けられた今川兵はひるみ、どっと後ろに崩れる。
 
 「かかれ、かかれ」。勝機と見た信長は判断を変え先頭に立ち本陣に向けて丘陵を駆けた。
 
 「そこだ、義元の本陣じゃ」。朱塗りの輿(こし)が打ち捨てられ、旗本の精鋭三百が義元を取り囲み引き始めたが、狭い地形では兵の多寡は関係ない。勢いに任せて追う方が強い。しかも今川方にとっては、まさかの敵の出現だった。
 
 義元は首を打ち取られ、今川軍は総崩れとなる。信長も予期せぬほどの大勝利となった。
 
 現代風にいうと、社の礎を築いた出来事。社史に特記してもおかしくないリーダーの業績だったが、信長はのちのちまで、側近たちが桶狭間の勝利について語るのを嫌ったという。
 
 本来なら全軍を死地に追いやった致命的な誤判、そして暴風雨という運、偶然に救われた。彼はこれを勝利の方程式には組み込まなかった。
 
 「このような戦いを重ねてはならぬ」。本能寺で果てるまで、信長は圧倒的な兵を整えて「勝てる」と確信がある戦いでなければ戦端を開くことはなかった。
 
 負け戦に教訓を得ることはたやすい。だれもが奢る勝ち戦にこそ、「やってはならぬこと」を学ぶ。それを勇気という。

 
 
 ※参考文献
 『現代語訳・信長公記』太田牛一著 新人物文庫
 『信長の戦争』藤本正行著 講談社学術文庫
 『勝つ武将負ける武将』土門周平著 新人物文庫
 
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  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

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