様々な企業を調査していると、新規事業でそんな市場で本当に成長できるんですか?というような事業にしばしば遭遇する。すでに世の中に広く知れ渡るようになったが、トリドールが始めたうどんのチェーン店はまさにそんな事業であった。
うどん店に製麺機を持ち込んで、エンターテインメント性を持たせたことで、多くの顧客を惹きつけたのである。そして事業としての成長どころか、会社自体がうどんの会社になってしまうほどの成長を遂げた。同社の2004年3月期の営業利益は1.3億円に過ぎなかったが、2013年3月期には何と70億円を超えるまでの規模となった。
まさに、うちは中小企業だから、とてもとても何て言っている場合ではない程のポテンシャルを示したわけである。
最近もそんな事業に巡りあった。それは柿安本店が本格的に取り組んでいる和菓子のチェーン店ビジネスである。
同じ菓子の業界ではあるが、洋菓子には大手チェーン店があるものの、和菓子には大手チェーン店はない。eお菓子ネットによると、2013年の生和菓子市場は小売金額で4,670億円と4,248億円の生洋菓子市場より若干規模が大きい。やや意外感はあるが、どの街にもある老舗の和菓子屋さんの存在が意外に大きいのかもしれない。
洋菓子のチェーン店といえば、上場企業で不二家、モロゾフなど思いつく企業はあるが、和菓子ではほぼないといっていい。もちろん、未上場企業であればしばしば耳にする企業には、とらや、両口屋是清、鶴屋吉信、亀屋万年堂などといった企業がある。これらの企業は多くて100店ほどの店舗数であり、その多くは百貨店の地下への出店である。とらやの羊羹に代表されるような特徴的な商品を販売しながら、ごく一般的などら焼きや団子を扱っているところもあり、季節によって柏餅やちまきなどを販売することもある。
それに対して柿安本店が展開する和菓子店は「口福堂」という名称で、主にショッピングセンターで展開している。多くのショッピングセンターには和菓子店が入っているが、それらの企業に有名企業は少なく、おそらく地元の企業が入っているのではないかと思われる。
もっとも同社が口福堂の展開を始めたのは2006年9月期とかなり以前である。同年度に11店舗の出店を行い、その後急速に出店数を伸ばし2009年3月上期末には96店舗に達した。しかし、その後出店にブレーキがかかり、2009年9月下期には7店舗の出店に対して、退店も7店舗と純増ゼロとなっている。
和菓子店の店舗数推移を見ると、2009年9月期から2013年2月期までほぼ横ばいの後、2014年2月期から急拡大している。今期も大幅な出店を予定している。
同社によると、当初、ショッピングセンターに出店したものの、ロケーションによってかなり売上にばらつきがあったようで、試行錯誤を行い、ビジネスモデルを確立していったようである。また、ここ二、三期で工場での加工度を引き上げ、店舗作業を大幅に軽減し、店舗の人件費を圧縮するなどの施策を行っている。
加えて、コンスタントに新商品が開発できるように、開発をシステム化することなども行った。さらに、販売促進企画や店舗自体の訴求力を向上することにも務めた。店舗の効率的な利用のために、店舗内に団子コーナーを別に設けるなどの方策も取っている。
このような施策の効果によって、店舗あたり売上高が順調に拡大している。期中平均店舗数に対する売上高は、2011年2月期の34.0百万円から2014年2月期には41.0百万円まで増加している。2014年2月期の新規出店数は37店舗となり、その前の期より22店舗多くなっている。2015年2月期には42店舗の出店と、さらに出店を加速する予定である。
《有賀の眼》
トリドールや柿安本店の事業を見ていて思うことは、ビジネスチャンスはどこにでも転がっているものだなという感想である。成長市場にもチャンスがあるし、成熟市場にもチャンスがある。もとろん、成熟市場でビジネスモデルを確立した大企業があると意外と難しいかも知れない。
つまり、誰もビジネスモデルが確立できないゆえ、大企業がなく、アイディア次第でビッグビジネスとなり得るという可能性はあろう。もちろん、誰も考えついていないわけであるから簡単ではないが、挑戦しがいがあるのではなかろうか。