北朝鮮の奇妙な行動に日本を含む国際社会が振り回され続ける真の原因は、北朝鮮の意図を見誤り続けていることだ。
時間とともに深化してゆく核実験と弾道ミサイル発射実験の行き着く先は、米国に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を手にすることだ。この意思は、1980年代に初代指導者の金日成(キム・イルソン)が極秘に核開発を命じた時から変わらない。巨額を投じてきた。
では、何のための核武装戦略なのか。体制生き残りのためだ。90年代に入って旧社会主義圏が崩壊し、北朝鮮は後ろ盾を失った。200万を超える軍を持ってはいるが、兵備は旧式だ。朝鮮戦争は1953年に休戦協定が結ばれたが、実質的には交戦状態のままだ。
苦境を脱するために、核武装し、韓国に兵を駐留させる米国と対等の立場に立って交渉し、休戦状態から平和協定体制に移りたい。核武装すれば通常兵器の軍事負担を減らすことも可能だ。「核抑止力」の発想だ。
21世紀に入り、イラク戦争でサダム・フセインのイラクが崩壊(2003年)すると、北朝鮮は「フセインは核兵器を持たなかったから米国にいいようにやられた」と総括し、「次は我々か」という危機感とともに核武装の意思はより強まる。二代目金正日(キム・ジョンイル)晩年の2011年には、やはり独裁者カダフィ率いるリビアも崩壊し、核武装の夢は遺言として金正恩(キム・ジョンウン)に継承された。核・ミサイル開発は加速し、ほぼ完成してしまった。
そう考えると、金正恩が手にした核を放棄することはあり得ない。米国大統領トランプに韓国特使を通じて送った「米朝首脳会談提案」のメッセージも、「対等な核武装国同士」での軍縮交渉の呼びかけである。米朝首脳会談が実現したとしても、「核放棄を求めるなら、在韓米軍を撤退させろ。そして平和協定を結ぼう」と言い出すのが落ちだ。支持率が低迷したまま秋に中間選挙を迎える米大統領トランプは、完全に足元を見られている。
「経済制裁が効いてきて、北朝鮮もギブアップした」との見立ては当たらない。彼らは十分に準備して対話を仕掛けてきている。
「金正恩と会って、ビッグ・ディール(大取引)をしてみせる」と強がるトランプ。新商品(大陸間弾道弾)を携える相手との商談成立は、当然、高い代価を払うハメになる。
トランプが好んで使う「ディール」。確かに外交は国益をかけた商取引だ。売り手と買い手の力関係で高くもつき、安くもなる。