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採用・法律

第76回 『パワハラは、なくなるべきではない?』

中小企業の新たな法律リスク

 2022年4月からいわゆるパワハラ防止法が中小事業者にも適用されることとなり、田中社長も相談窓口の設置等をしました。田中社長は、これで大丈夫だろう、と思いましたが、念のため賛多弁護士に相談にやってきました。

* * *

田中社長:うちの会社もパワハラ防止法への対応が必要だということは聴いていましたので何とか間に合うように、トップメッセージの策定、規定やマニュアルの作成、相談窓口の設置なんかを揃えました。それで、今日はこれについて先生にお墨付きをいただきたく参りました。

賛多弁護士:田中社長、今日、お話を聞いてすべてを判断するのは難しいですが、まずは例えば、相談窓口の設置について伺ってもいいですか。

田中社長:はい。もちろんです。

賛多弁護士:相談窓口は、社外と社内の両方に設置されましたか。

田中社長:いいえ。会社としてはコストを最小限にしたかったので社内に設けただけです。

賛多弁護士:そうですか。もし、相談窓口に、たくさん相談がきたら社長ご自身はどう思われますか?

田中社長:それって、社内だけだと対応しきれないだろう、とかそういうことをおっしゃっているんですか。

賛多弁護士:いいえ。そういうことではないんです。率直に、どう感じられるかを伺いたいのです。

田中社長:そりゃ、社内の問題を次々挙げられるということですから嫌だなと思います‥‥。

賛多弁護士:では、パワハラの問題が表面化してこないとどうなるでしょうか。

田中社長:うーん、まあ、どこかで爆発して問題が起こりそうには思いますね。

賛多弁護士:そのとき、爆発が発生するのはどこですかね。

田中社長:えー?おっしゃっている意味が分からないのですが‥‥。

賛多弁護士:その爆発が発生するのは、会社の内部ではない可能性があります。つまり、労基署だったり、マスコミだったり、SNSだったり。しかも、そういう場合はたまりにたまって、我慢できなくなった場合の最終的な手段であることが多いので、その爆発の程度も大きいはずです。そのため会社への損害は計り知れないと思われませんか?

田中社長:確かに、言われてみれば‥‥。

賛多弁護士:今度は最初に戻って、従業員が相談窓口に来る、というのはどうして起きるのか考えてみましょう。従業員が相談窓口に来るというのは、相談窓口に来れば、多少なりとも会社は何かしてくれるのではないかと、まだ会社に対して一定程度の信頼をしてくれているということです。

田中社長:なるほど。

賛多弁護士:ですので、相談窓口にたくさんの相談が来るということは、むしろ会社にとっては望ましいことなんです。会社が適切にその相談に対応できれば、その先の爆発の可能性がかなり減らせるのです。

田中社長:望ましい‥‥そうなんですかね。なんか、まだ‥‥うーん‥‥。

賛多弁護士:では、もう一つ質問させてください。。

田中社長:はい、なんでしょうか。

賛多弁護士:会社からパワハラは、なくなった方がいいと思いますか。

田中社長:もちろんそうだと思います。

賛多弁護士:私も理想はそうだと思いますが、現実的にはパワハラが完全に消えるのは難しいです。それに、誤解を恐れずに言えば、なくならない方がよい、とも言えるかもしれません。

田中社長:先生、どういう意味なのでしょうか?

賛多弁護士:御社はだいぶ規模も大きくなっていらっしゃいますが、会社の組織上のすべての問題に社長は気付くことができていますでしょうか。

田中社長:組織上の問題?それはどういったことでしょうか?

賛多弁護士:たとえば、どこかの役職に過度な負担がかかっているということはないでしょうか。

田中社長:そうですね‥‥さすがに私がすべてを把握するのは難しいので、もしかしたら。どこかで歪(ひずみ)が発生していることはあるかもしれませんね‥‥。

賛多弁護士:そこなんです。それが私の申し上げたい、組織上の問題なのです。

田中社長:といいますと‥‥?

賛多弁護士:パワハラが起きる原因は、そこにあるんです。もちろん、パワハラをする個人の人格的な問題も原因となっていることもありますが、そうではない場合、つまり、先ほど社長のおっしゃった歪、すなわち組織上の問題が原因となっている場合が多いのです。

田中社長:なるほど‥‥。

賛多弁護士:組織の構造上、ある役職に過度なストレス・負担がかかっている場合、その役職者は、その状態を打開するために他の社員に対して、感情的になりやすかったり、無理な要求を求めたり、時には怒りをぶつけることがあるわけです。

田中社長:なるほど、それがパワハラか。パワハラは組織上の問題を教えてくれるアラートであると先生はおっしゃっているのですね。

賛多弁護士:そのとおりです。もし、組織上の問題を抱えたまま、パワハラを抑え込んだ場合、水面下にある問題を大きくしてしまいかねません。田中社長のところでは、これまでパワハラが問題になったことがありますかね。そのとき、どのように対応されましたか?

田中社長:パワハラの行為者を別の部署に異動させました。

賛多弁護士:その後、異動させられた人はどうなっていますか。

田中社長:今では心を入れ替えたのか、非常に評判も良く成果もあげてくれていますよ。

賛多弁護士:それは要注意ですね。

田中社長:また、先生、変なこと言って。パワハラをする人が心を入れ替えたことの何が問題なんですか。

賛多弁護士:では、そのパワハラが起きた部署はどうなってますか。

田中社長:それ以降も何かあまりいい雰囲気ではなさそうですが、それはその問題の影響が残っているだけで、いずれなくなるかと思っていたのですが‥‥。

賛多弁護士:その部署のこと、しっかり見てみてください。その問題がパワハラをした方の人格的な問題でなく、組織上の問題に起因していた場合、また何かが起きるかもしれません。

田中社長:つまり、そのパワハラが組織上の問題を教えてくれるアラートだった場合のことをおっしゃっているのですね?!また、パワハラが起きるということでしょうか。

賛多弁護士:そうとは限りません、異動させられたパワハラの行為者の後任の人の体や心に問題が発生する可能性もあります。あるいは、すでに起きているかもしれません。パワハラをした人が担当していた役職に過度なストレスや負担がかかっていないか、早めに調査することをお勧めします。

田中社長:なるほど‥‥。早急に取り掛かろうと思います。

* * *

 皆さんの会社もいわゆるパワハラ防止法への対応でトップメッセージの策定、規定やマニュアルの作成、相談窓口の設置等、様々整えることがあり、ようやく落ち着かれたころでしょうか。しかし、いくら形式的に整えたとしても、中身が伴っていなければ、パワハラ問題には対応できません。
 今回は、相談窓口に相談が来るという、一見すると会社にとって望ましくないことが実は会社にとって望ましいことであるということ、換言すれば、多くの会社にとってパワハラが発生することが経営の問題を把握する上で重要なアラートであるということを知っていただきたく、このコラムを書かせていただきました。いつもと違って、法律問題とは少し離れた会話ではありますが、重要なことですので経営の一助になれば幸いです。


執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 町田 覚

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