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マキアヴェッリの知(1) 権力維持の現実論

指導者たる者かくあるべし

 マキャべリストは悪のイメージ?

 日常よく耳にする「あいつはマキャベリストだから」という人物評価には、どうも否定的イメージを伴う。目的のためには手段を選ばない没理想主義者。あるいは権謀術数を駆使する権力亡者であり、権力獲得、維持のためには血も涙もないリアリストの像である。


 マキャベリストの語源となったニッコロ・マキアヴェッリは15、16世紀のイタリア・ルネッサンス末期を、フィレンツェの外交官であり思想家として生きた。彼はイタリアが多くの地方都市国家に分かれていた戦国時代ともいうべき時代に、現実の国際、国内政治に携わりながら、深い人間洞察の中から政治を動かす原則的な三代要素に気づく。権力者(君主)に求められるのは、冷酷なまでの「力(力量、器量)」と、「時代の要求に合致する能力」、そして「運」であると。


 彼のために弁明を許されるなら、彼は人生において、正義や理想をかなぐり捨てた訳ではない。そうした徳目とは無縁の世界として政治の世界は存在すると説いている。政治を力が激突する世界として分析し、人生の徳目とは厳然と切り分けたのだ。


 マキアヴェッリは、『君主論』をはじめとしていくつかの政治論集を残している。それらが、数百年の時を超えて今も古典として読み継がれているのは、時代にとらわれない普遍の真理を含んでいるからに他ならない。


 イタリア史に精通した作家の塩野七生(しおの・ななみ)氏は、マキアヴェッリの論に出てくる「君主」を「指導者」に、「国家」は「共同体・組織」に読み替えることは可能だと指摘している。それに従い、ともすれば難解な彼の思想を、われわれに身近な企業組織の統治論、リーダー論として読み解いていこう。

 

 政治闘争の時代

 まずはマキアヴェッリが生きた時代を書いておく。彼はメディチ家が支配するフィレンツェで育ったが、フランス王シャルル8世がイタリアに侵攻し、政治情勢は激動する。栄華を誇ったフィレンツェのメディチ家支配は崩壊し、共和政府が成立する。マキアヴェッリは29歳で共和政府の軍事・外交担当の書記官に登用された。


 しかし、共和政府は国際政治に翻弄されて瓦解してメディチ家支配が復活し、マキアヴェッリは追放される。『君主論』は、彼がフィレンツェ郊外に隠れ住んでいた時に一気に書き上げられた。同書は、リーダー指南書として書かれ、政治的復活を目指す彼は、これをメディチ家への接近の材料として使う。軍事・外交場面で、マキアヴェッリは、フランス王の裏切り、市政の混乱などさまざまな政治的辛酸を舐めており、それらが同書の洞察に盛り込まれている。国内外で起きる政治闘争に巻き込まれた政治的経験に基づいている。フィレンツェの復活を願う愛国の書でもある。


 執筆の狙いにについて、こう書いている。(『君主論』第15章)
 〈私がここに書く目的が、このようなことに関心を持ち理解したいと思う人にとって実際に役立つものを書くことにある以上、それについて想像よりも事柄の現実的真理に即するのがより適切であると考える〉
 空論としてのリーダー論ではなく、実体験に基づく論であることを強調している。

 

 狐とライオン

 前書きはそれぐらいにして、それではまず、マキャベリズムの真骨頂ともいうべき一文から入ろう。


 〈君主(リーダー)にとって、術策など弄(ろう)せず公明正大に生きることがどれだけ賞賛に値するかは、誰もがわかっていることである
 それを前提に〈しかし〉と続く。〈しかし、われわれの経験は、信義を守ることなど気にしなかった君主のほうが、偉大な事業を為しとげていることを教えてくれる。それどころか、人々の頭脳をあやつることを熟知していた君主のほうが、人間を信じた君主よりも、結果から見ればさらに優れた事業を成功させている。成功を収めるには二つの方法があるということだ。一つは「法律(規則)」であり、第二の方法は「力」である。前者は人間のものであり、後者は野獣のものである


 ちょっと怖いが、リーダーはこの二つを使い分ける能力を持つべきだと主張する。


 さらにマキアヴェッリは、〈野獣の「力」にも二つある〉と論を展開する。狐とライオンを例示している。〈ライオンだけならば、罠から身を守ることはできず、狐だけならば、狼から身を守れない。罠を見ぬくには狐でなくてはならず、狼を追いちらすには、ライオンでなければならない〉。


 動物園のサル山のボスの座をめぐる抗争を見ても、永田町の権力闘争を見ても、政治とはそういうものであろう。そういう仁義なき戦いの場面を組織生活者は日常的に経験するが、果たしてそれで組織のリーダーがつとまるのだろうか、という話は、次回以降に譲ろう。

 (※マキアヴェッリの人名表記は、マキャベリ、マキャベリー、マキャヴェリーなどさまざまあるが、本論では、イタリア語の原音に近いマキアヴェッリと表記する)

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

※参考文献
『君主論』ニッコロ・マキアヴェッリ著 講談社学術文庫
『マキアヴェッリ語録』塩野七生著 新潮文庫

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