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交渉力を備えよ(49) 本音で向き合うことが信頼関係の基礎

指導者たる者かくあるべし

 田中角栄と周恩来。日中両首相の首脳会談でのやりとりについて、間近で見ていた官房長官の二階堂進は、北京に押しかけた取材陣に対して、「驚くほど率直に意見を交換した」と会見で披露している。

 日中国交回復30年を期して情報公開法により、会談記録が公開されたが、微妙な本音トークは穏当な表現に替えられ一部が伏せられている。関係者らの証言を総合すれば、二人の間には丁々発止の火花が飛んでいた。

 面子論も絡んだ台湾問題の扱いが、両者の異見のすり合わせのキーポイントではあったが、実のところは、中国が「われわれを敵視している」と反発する日米安保の取扱いと「日本軍国主義復活」への懸念、日本は中国による「革命輸出」を問題視していた。

 この問題については、第一回の首脳会談で触れられている。

 田中「あなた方は、佐藤内閣時代に口を開けば、『日本は軍事大国になる』と言ってきたが、その点、どう考えているのか」

 周「日本は今日、核兵器を持つ能力が十分にある。そう承知している」

 田中「日本は軍事大国になる考えなど毛頭ない。核兵器も持たない。非核三原則もある。憲法からいってもそうしたことはありえない。二度とそういうことを言わないでもらいたい」

 そうクギを刺したあと、田中は、さらに中国側の姿勢を質している。

 「(国内の)反対派は、日中復交ができれば、中国が日本に共産主義を輸出するとか、日本の赤化をはかろうとするとか、そうまで言っている。事と次第によっては、私は帰国後に殺されるかもしれない」

 「心配は無用だ。もちろん思想信条の自由は制限できないが、共産主義の輸出などできるわけもない。中国が一度でも日本を攻めたことがあるか。かつて元が攻めたというかもしれないが、あれは中国人の国ではなかった」

 本音でのずばりのトークで互いの疑念を消す。それが信頼関係の基礎となる。美辞麗句で友好をうたうだけでは上滑りに終わる。

 そして田中は、最大の隠しテーマである日米同盟について、周の見解を迫る。

 「日本としては、日米関係を大きく損なうことになるなら日中正常化はできない。日米安保条約は日本だけでなく地域の平和と安定に不可欠だ。中国としては、安保条約を脅威だと感じないでほしい。ニクソン大統領の訪中が実現した今、米中の間でも理解できるはずだ」

 さて、それに周は、どう応じたのか。 (この項、次回に続く)

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

参考文献

『早坂茂三の「田中角栄」回想録』早坂茂三著 小学館
『田中政権・八八六日』中野士朗著 行政問題研究所
『田中角栄の資源戦争』山岡淳一郎著 草思社文庫
『記録と考証 日中国交正常化・日中平和有効条約締結交渉』石井明ら編 岩波書店
『求同存異』鬼頭春樹著 NHK出版

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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