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人間学・古典

第15講 「言志四録その15」
得意の時候は、退歩の工夫を著くべし。

先人の名句名言の教え 東洋思想に学ぶ経営学

【意味】
自分の思いのままになったときは、一歩を退くくらいの謙虚さが必要である。


【解説】
儒教思想の影響が強いのでしょうが、日本では、『謙譲の美徳』という考え方が尊重されています。
欧米人には、なかなか理解できない思想で、時に誤解を生むようなことも多いようです。

日本ばかりでなく東洋全体にこの『謙虚』という考え方が定着したのは、
古来より農耕民族であった事に起因しているのではないかと思われます。
農耕民族が繁栄していくためには、自然との協調が不可欠です。
いくら人間が進化し、知恵をつけたところで、自然(天)の摂理には敵うものでもありません。
西洋の狩猟民族が、単に強弱を競うことに主眼を置いた競争社会を構築したのに比べ、
自然・天候という絶対的な存在の庇護の下での生活は「謙虚を美徳とする生活意識」を定着させたのだと思われます。
 

『遠慮の人』とは、遠い先のことまで配慮のできる人をいいます。
配慮しようと思えば、他人に対して控えめになりますから、自然と礼儀正しい人となります。
逆に、『無遠慮な人』とは、この気配りを考えずに振舞いますから当然、無礼な人となります。

若くして礼節に欠ける人がいますが、この種の人たちは地位を与えられ、
人の上に立ったり人を指導したりする可能性も少ないですから被害はさほど大きくなりません。
まだ若いですから上司や先輩から指摘を受けて自然と直ってくることも多々あります。

一番困るのは、地位に就かせた後に威張り散らし、いつしか「無遠慮な人種」に変身してしまう者です。
人間は地位や年齢にふさわしい日常生活の心掛けを怠りますと、
自分自身も気づかないうちに「無遠慮な人」に変わってしまいます。
もっと被害が大きいのは、後継者を育てられないトップです。
どんなに優秀な人でも寄る年波には勝てません。権限が集中するトップの立場が長いと、
部下からの苦言は皆無となって自然に自分を見失ってしまいます。
功績あるトップが退く時期を見失い、寂しい引退をするのはこのためです。(参考第14講)


それではどのような日常を心掛けたならば、遠慮深さを保つことができるでしょうか。
様々な方法がありますが、代表的な二つの方法を紹介します。

その一つは、小言を言って貰える人を持つことです。
遠慮なく小言を言ってくれる親や恩師の類の人です。
昔の名君は我が身の間違いを正すために、専門の小言を言う係(これを『諫義太夫』という)まで置いて身を律しています。

二つ目は、『尚友』といって読書の中の友人を持つことです。
困難にあった場合には、古典の中の尊敬する人に登場してもらって、どうしたらよいかと心の中で問い掛けることです。
尚友はいつでもはせ参じてくれますが、少々気位が高いところがありますから、
こちら側もその人物のレベルに可能な限り近づかなければ相手にされないこともあります。


杉山巌海

第14講 「言志四録その14」鋭進の工夫はもとより易からず。退歩の工夫はもっとも難し。前のページ

第16講 「言志四録その16」人の賢愚は、初めて見るときにおいてこれを相するに、多くを誤らず。次のページ

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