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国のかたち、組織のかたち(4) 独裁組織の再生をはかる(フルシチョフのスターリン批判)

指導者たる者かくあるべし

 ソ連共産党第20回党大会の衝撃

 1956年2月25日、モスクワで開かれたソ連共産党第20回党大会で、党のトップである第一書記のニキータ・フルシチョフは驚くべき秘密報告演説を行なった。党内で長年にわたり独裁権力をほしいままにし、三年前に死去した、ヨゼフ・スターリンによる凄惨な粛清作業を暴露して徹底的に批判し、その原因である「個人崇拝」の害の根絶を宣言したのだ。

 演説の冒頭でフルシチョフは、個人崇拝の害毒を鋭く指摘する。

 「ある特定の人物をことさらに持ち上げ、その人物を神にも似た超自然的能力をもつ超人に仕立て上げることは、マルクス=レーニン主義にとって許し難いことであり、また無縁のことであります」

 スターリンの死後、その行き過ぎた権力集中への反省から、スターリン時代に粛清されて処刑され、あるいはラーゲリ(政治犯収容所)に送り込まれた数百万人の国民の名誉回復運動は始まっていたものの、第二次世界大戦における対独戦を勝利に導いたスターリンの全否定は、共産主義体制そのものを危機に陥れる可能性がある。その危険をフルシチョフはあえておかした。そして、国家の運営の基礎として、法治主義と集団指導体制の必要性を訴えた。

 スターリン批判演説は、メディアと各国共産党の代表団を退席させた非公開の場で行われた。非公開とはいえ、その場には1,436人の代議員が出席しており、演説内容はやがて、国内各層、国外の共産党組織にも漏れ、東西冷戦まっただ中の世界に大きな波紋を投げかけることになる。

 個人崇拝が生み出す組織の官僚化

 リーダー連載であえてスターリン批判問題を取り上げたのは、国際共産主義運動の歴史を書こうとしたのではない。いかなる組織においても、権力集中、独裁への誘惑は芽生える。それを防ぐ手立てを持ち合わせなければ、組織は暴走し、やがて滅びるということを認識することが目的だ。

 民主的決定方式を前提とする資本主義的企業経営においても、民主的手続きは時として面倒なもので、権力者は、独裁的運営を志向する。「俺の判断は絶対に正しい」「黙って俺の決定について来い」。その方が仕事は速い、事態の推移に迅速に対応できる、と。その通りなのだが、トップが経営判断を間違えた場合、経営方針の修正が遅れるか、あるいは乗り換えるべきプランBを用意しておらず、組織を破滅させることになりかねない。立志伝中の創業者や、中興の祖を仰ぐ組織にその危険はある。

 フルシチョフは、演説の中で、権力独裁と個人崇拝がもたらす弊害について、こう言う。

 「個人崇拝は、党内民主主義とソヴィエト(下部執行機関)民主主義を乱暴にも破壊し、不毛な官僚化をもたらし、欠陥を隠して現実を美化するという結果を生み出した」

組織の官僚化と粛清(強引な懲罰人事)の結果はどうなるか。「優秀な活動家が数多く逮捕されたために、多くの勤労者が自信を持って働くことができず、過度に用心深くなり、あらゆる革新を恐れ、自分自身の影におびえ、仕事で積極性を見せなくなる」。

 思い当たらないだろうか、あなたの周りで。

 権力闘争を超えて優先されるべきこと

 フルシチョフは、ウクライナに程近い片田舎の貧農家庭に生まれた。満足に教育を受けられなかった彼の才能を見出したのは、他でもない権力の絶頂期にあったスターリンだった。党内の側近として引き立てられ、スターリンの強引な政治を支えてきた。「スターリン批判も、スターリン後の権力闘争の一環として、師を切り捨てたに過ぎない」との批判もある。

 確かにフルシチョフは、この党大会で権力基盤を安定させた後、党内のライバルを次々と粛清する。権力闘争は、組織トップを目指す以上、不可避の悪業だ。キューバ危機を乗り越え、米ソの平和共存路線を指導したフルシチョフだが、やがて、農業政策の失敗が槍玉にあがり、1964年、権力闘争に敗れ、失脚する。1971年に死去。ソ連指導部は、ブレジネフーグロムイコによる集団指導体制に移行する。

 モスクワ近郊で年金生活を送る哀れな老人は、晩年、息子に繰り返し話したという。「私の解任を彼らが要求できたのは、自分の生涯最大の功績だ」

 負け惜しみか、せめてもの自負か。フルシチョフ時代に比較的自由な雰囲気の中で党生活を開始した「雪どけ世代」と呼ばれるゴルバチョフ、エリツィンの手によって、ソヴィエト・ロシアは、崩壊する。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

(参考資料)
『フルシチョフ秘密報告「スターリン批判」』全訳解説 志水速雄著 講談社学術文庫
『フルシチョフ回想録』ストローブ・タルボット編 タイム・ライフブックス

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