「全体ミーティングは不要」の真意は
万年Bクラスに甘んじていたプロ野球セリーグの横浜ベイスターズを就任一年めで日本一に導いた監督・権藤博は、ミーティングを廃止した。選手全員を集めての全体ミーティングは不要というのだ。
その理由について、権藤はこう語る。
「全体ミーティンの話の中には、ある選手には当てはまっても、他の選手には当てはまらない話も往々にして出てくる。それを自分の話として受け止める選手がいれば、その選手を誤った方向に導いてしまうからだという。
では選手とのコミュニケーショはどうして取ったのか? グラウンドを歩き回り、選手と直接対話してアドバイスした。権藤流のミーティングだ。その方が監督の思いを選手によく伝えられるし、何よりも、対話によって監督としての収穫が大きいという。
会社の朝礼などでダラダラと長話をする人は要注意。「時間を有効に使う上でも、ミーティングはできるだけ少人数で行い、密にコミュニケーションをとることが大切だ」。
日本には会議の後に裏の会議がある
ラグビー日本代表チームを世界に通用するレベルまで引き上げたエディー・ジョーンズも、ミーティングのためのミーティングを厳禁した。ヘッドコーチとコーチ陣、コーチと選手たちが、「互いに向き合って正直に話し合うべきだ」というエディ―は、来日して感じたことがあるという。
「日本では、会議の後に、裏の会議がもう一つ開かれるようだ」。日本社会では、企業でもそうだが、皆の前で、トップに対して自らの意見を言うのは憚(はばか)られる風土がある。表の会議では、異論があってもトップのいうことに頷いて、裏でこっそりと意見をいう。そんなニンジャのような振る舞いでは、「チームの方向性は伝わらず、一貫性のあるコーチングはできない」というのがエディーの信念だ。
意思疎通を妨げる大企業病
盛田昭夫とともに電器メーカー・ソニーの前身である東京通信工業を立ち上げた井深大(いぶか まさる)も1970年の年頭の経営方針発表で、社長として社内の問題点を指摘した。トリニトロン・カラーテレビがヒットして業績が伸びに伸びていたころだ。
「ソニーはもはや中小企業ではなく、メジャーリーグに加われるだけの規模を備えてきた。規模が大きくなってその機動力がが失われたとしたら、ソニーにはもはやなんの魅力もなくなるでしょう」として、第一の課題としてコミュニケーションの問題を取り上げた。
「真のコミュニケーションは、相互に自分の意思をはっきり示し、意見が通じることを確認しあって、はじめて成り立つものであります。社内の最近の動きをみていると、命令をくだし、それに対する結果を報告することぐらいでコミュニケーションが完全に行われているのだと思っているふしが、多々見受けられます」
数十人規模のスポーツチームであれ、数千人の社員を抱える大企業であれ、組織を動かす要は、コミュニケーションの取り方に尽きる。
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
※参考文献
『教えない教え』権藤博著 集英社新書
『ラグビー日本代表監督エディー・ジョーンズの言葉』柴谷晋著 ベースボール・マガジン社
『自由闊達にして愉快なる』井深大著 日経ビジネス文庫