東京オリンピックのスポンサー契約をめぐる受託収賄のニュースが報道されています。
民間企業間の取引においても、仕事の受注にお金が動くことがあります。
正式な契約での取引なら問題ないのですが、社長が知らないところで問題が起きることがあります。社員や役員が、正規の取引以外に個人的に裏で取引をしているケースです。
いわゆる取引業者からのリベートが代表的な手口です。もちろん詐欺、背任、横領などの違法行為であり、犯罪です。
帳簿上に現れないので、経理も不正取引に気づきません。
税務調査などで不正取引を指摘されて初めて、社長と経理は事実を知り、愕然とすることは少なくありません。
社長は「信頼して仕事を任せていたのに……」と、ショックと憤りで後悔してもしきれません。
不正取引を起こさないためには、会社として防止対策が必要です。
そこで今回は、「社員・役員の不正取引を防止する3つの対策」について説明します。
御社は、「社員が絶対にリベートを受けていない」と断言できますか?
【対策1】社長は不正取引を他人事だと思い込まない
製造業者が販売業者に対して、一定の販売数量に応じて販売奨励金(リベート)を支払うのは通常の取引行為です。
また、取引の打ち合わせ時の飲食やゴルフなどの接待・お中元お歳暮等は、商慣習としてある程度は許容されています。
問題になるのは、通常の会社取引の枠を超えた個人的な裏取引です。
会社の肩書きや権限を利用した個人的な不正リベートは、キックバック、バックマージンなどと呼ばれることがあります。
たとえば、次のような裏取引がなされていることがあります。
●工事の現場監督:下請け業者に工事を依頼する代償として、個人的に金銭などを要求したり、過剰な接待を受けたりする。
●仕入れ担当者や購買担当者:特定の納品業者に有利な条件で商品等を購入することの見返りに、個人的に金銭等の経済的利益を受ける。
大企業の“数千万円から数億円単位という不正取引″が事件としてニュース報道されても、ほとんどの社長は対岸の火事だと思っていることでしょう。
しかし実際には、中小企業における数百万円以下の不正取引は、日常的に発生しているのです。
社長が知らないところで、経理の目が届かないところで、今もどこかで不正取引事件が起きているかもしれません。
不正取引を、他人事だと思い込んでいませんか?
【対策2】不正取引の‶予兆”を見逃さない
社内の不正が発覚するのが、税務調査です。
取引先の税務調査で不正取引が見つかったり税務署へのタレコミがあるなど、情報源はさまざまです。
税務調査では、通常の取引では考えられない点を調査官は疑います。たとえば、つぎのような場合です。
・ほかの業者に比べて特定の業者に対する支払い単価が過大である。
・相手に特別に有利な条件で取引がおこなわれている。
当事者は否定しても、取引相手側に対する反面調査により不正が暴かれます。
税務調査で不正が発覚すると、会社は次のような事態に陥ります。
・社員や役員がキックバックを受けた金額に相当する外注費や仕入高が、税務上否認される。
・修正申告(または更正)により、法人税及び消費税が追徴され、過少申告加算税(場合によっては重加算税)が課されることになる。
会社は不正をおこなった社員または役員を懲戒処分するとともに、被害額を本人に損害賠償請求します。
しかし、本人がギャンブルや遊興費、借金返済などに使ってしまい、その時点で支払い能力がなければ返済を受けることは難しいでしょう。
いずれにしても、不正取引が起こると会社は高い授業料を支払わされることになります。
最近、生活が派手になったり、荒れていたりする社員はいませんか?
【対策3】社内に「不正取引防止のルール」を定める
不正リベートに関与するのは、役員や部長、課長などの管理職といった取引権限のある人です。
取引金額によっては、業者の担当者の営業成績ばかりではなく、その会社の存続にかかわる場合もあります。
取引業者も仕事を取るために必死です。
毎日のように業者に頭を下げられていると、自分が偉くなったかのように勘違いする人間もいます。
最初は冗談半分かもしれません。キックバックを酒の席で要求してみたら、あっさりと支払ってくれた。その後はズブズブの関係が続く。このようなパターンが多く見られるのです。
逆に、業者のほうから話を持ちかけられるケースも少なくありません。
社員にはまったくその気がなくても、謝礼として現金を渡されるというケースは、映画やドラマでよく見る光景です。
人間というのは、案外と弱いものです。相手にお願いされ、感謝されると、関係を一方的に断ち切れなくなってしまうようです。
このような取引業者との裏取引は、会社の外で内密に行われます。ですので、なかなか表には出てきません。
不正取引が発覚するのが遅くなればなるほど、問題が長期化し、被害額が膨れ上がります。
会社にとって損な取引が継続すれば、利益が喪失していきます。
社長としては、取引業者との癒着が起きないように、事前に対策して会社のルールを決めておきましょう。
取引業者からの接待は、一切受けないことにしている会社もあります。
基本的なことですが、最低でも次のことは、ルールとして徹底しておいてください。
・一定金額以上の取引については、必ず相見積もりを取る。
・定期的に取引権限者および業者担当者を交代させる。
3年以上、同じ業者を一人で担当している社員はいませんか?
不正取引のリスクを想定して早めに対策する
今回は、社員の不正取引について、説明しました。
不正取引防止のポイントは、次の3つです。
ポイント① どこの会社でも不正取引が起きることを自覚する
ポイント② 不正取引に気づくのが遅れると大きな損害になることを認識しておく
ポイント③ 社員と取引業者に癒着が起きないルールを決めて徹底する
会社経営が順調なときでも想定外のことが発生して、足をすくわれることがあります。
社長としては、“転ばぬ先の杖”として、不正取引の対策を早めにしておきましょう。
会社の損害防止のためだけでなく、社員を犯罪者にしないためにも、社長から業者へ取引ルールを説明しておくことも大切です。
社内外に、誘惑に負ける風紀のゆるみはないですか?