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人間学・古典

第43講 「言志四録その43」
我既に天の物なれば、必ず天の役あり。

先人の名句名言の教え 東洋思想に学ぶ経営学

【意味】
自分の命は、天地自然界から生み出された一物の命であるから、
必ず自然界の法則が支配するこの世の中で「我が命を燃焼できる素晴しい役割」がある。


【解説】
日本国憲法は第10条以下に「国民の権利と義務」を掲げ、この権利と義務を条件に国民の自由と平等を保証して います。

一人の自由の保証は他人の権利の制限になりますから、「権利と義務」と「自由と平等」は表裏一体です。
それ故に我々現代人は、自分側の権利範囲と他人側の権利範囲を意識して生活しますから、
無意識のうちに自分と他人を対比する習慣が身に付いています。


人間学では、他者と対比して自己を捉える考え方を「人間界の自己中心論」といいます。
あくまでも自己を捉えるための比較ですが、比較意識の部分だけが強まりますと、
しばしば自分の心に傲慢や卑下慢を生じ、相手に対しても不足や不満を抱きます。
そのため自分独自の判断をしていると思っても、気付かないうちに
「隣の家は・・」となり、かなりの部分が周囲の人間関係に振り回されて判断することになります。


これに対して人間学では、「自然界の一微粒子論」という自己の捉え方があります。
掲句の教えもこれに近い思想観ですが、天地自然界の「しがない一微粒子」として自分の謙虚さを弁えると共に、
一方では無数の一微粒子が集まって天地自然界が構成するから「貴重な一微粒子」という考え方です。
現代人は「人間界の自己中心論」については理解できますが、
より大きな思想である「自然界の一微粒子論」が苦手ですから、少し丁寧に説明します。


まず天地自然界の中の自分の命を考えてみることを、巌海流には「我命根源」といいます。
難しく考える必要はありません。自分の存在を素直に考えてみれば直ぐに理解できます。

まず過去・現在・未来という時の流れの中の自分の命を考えれば、「縦社会の一微粒子」となり、
一方横に広がる空間の中の自分の命と考えれば「横社会の一微粒子」となります。  


前者の縦社会の命とは、700万年前の人類誕生以来、数え切れないほどの生死を繰り返してきた
種族の命であり、自分の命も現在の人間種族の先端を担う一つです。
天地自然の眼から見れば、台所のゴキブリも種族を支える一匹であり、庭の松の木も種族の一本となります。

後者の横社会での命とは、地球上に同時に生きる命ですから、自分の命を出発点に、
家族や恋人、地域や国、そして世界の60数億人の人類の命の一微粒子となります。
ゴキブリや松の木の命も同様に横社会の一微粒子となります。


掲句の天の役とは、人間一人には尊い役割があり、ゴキブリ一匹にも役割があり、松の木一本にも役割があるということです。
そして天から与えられた命には、 個々の命そのものを一つ目とし、その命の役割を二つ目とし、
更に最近の解釈では二つに加えて「役割遂行の後押しエネルギー」も含まれるとされています。

例えば、ゴキブリがゴミを漁る活動パワーは、ゴキブリの意思ではなく自然からの賦与であり、松の木の常緑を保ち
100年の大木に成長するパワーも、命や命の役割と同時に与えられた役割遂行の後押しエネルギーです。


人間学では天命と使命を大切にしますが、掲句の「天の役」同じ意味です。
天命とは天地自然側が人間に与える命の呼称で、使命とは命を与えられた人間側からの呼称です。
そして天命も使命も賦与された命ですから、前述した
「生命+命の役割+役割遂行の後押しエネルギー」の三つが含まれています。

個人欲望による努力も大切ですが、所詮は個人エネルギーの小さなパワーです。
これに対して天地自然の後押しエネルギーとなりますとかなりの大きさです。
昔から使命を自覚した人を「知命の人」と賞賛しますが、自分の努力エンジンと
天地自然の後押しエンジンの両パワーを活用できる人だからです。
既に150年前にハイブリット人間エンジンを提言していた一斎先生の先見性に驚くばかりです。
 

杉山巌海

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