【意味】
そなた達も、部下からの厳しい諫言を受けるとよい。自分が諫めを受入れる手本を示さないで、どうして部下を諌めることができるのか。
【解説】
簡単に読み流すと諫言(目上に対する忠告)の重要性を説く教えと受け取られますが、実はもう少し深い意味があります。それは帝の権威は、臣下人民に対する永年の配慮から築かれるという点です。
中国史三千年で最高の名君太宗ほどの人物であれば、その命令は威厳を背景にして臣下に当然に受け入れられるものと単純に思い込みます。しかし確かにそのような面もありますが、それ以上に日頃から臣下人民に対して心憎いまでの配慮をしたからこそ、帝としての命令がスムーズに行き渡るということです。
「貞観政要」を読みますと、帝太宗が如何に治国平安のために自己を律し努力をしてきたかがよく解ります。これほどの努力や気配りをしたならば、臣下人民も帝を尊敬し見習いますから、大唐国でも当然治まるはずと納得できます。
組織の中で上に立つ者の重要項目の一つとしては、部下から信頼を得るための手本行動を取れることです。
私どもの学園には、業務向上委員会があります。この委員会は将来に備えた教職員の能力向上を目指すものですが、ある年度の取り組み項目は以下の通りです。
(1)名句名言の和紙清書(名句名言の教えを和紙に清書、500枚目標)
(2)社内英文メール(日本語併用の学内英文メール、60通目標)
(3)英会話文一万文チャレンジシート(1枚10文の書き写しシート、500枚目標)
(4)各種資格試験への挑戦(業務範囲の拡大のための資格試験への挑戦)
地道な努力を伴うものですが、歴代メンバーが率先して手本を示しますから、周りの教職員も刺激され、多くの成果が出ています。
この委員会のメンバーであれ大唐国の帝であれ、上に立つ者は、(1)無闇に権威を振り回すのでなく、(2)自分が可能な限り実践手本を示し、(3)その上で全体の雰囲気を創る・・・という配慮が必要となります。
『新唐書』という書物には、太宗の気配りについて次のような記述があります。
「銅を以て鑑(鏡)と為し、衣冠(身だしなみ)を正すべし。古(歴史)を以て鑑と為し、興替(国家の興亡)を知るべし。人(他人)を以て鑑と為し、得失(自分の長所短所)を明らかにすべし」(新唐書)
人間学での経営能力は、トップの才能でなく「受け入れ度量」の大きさとしますが、掲句のように部下の諫言も喜んで聞けるようになれば、なかなかの度量人物といえます。