飄香(ピャオシャン)
長野から来客があり、『四方よし通信』コラムの情報交換をかねて広尾の『飄香』で会食することにしました。
『飄香』は「広尾の怪人」こと会員でもある井桁良樹シェフの店です。麻布十番から移転してちょうど一年になります。
わかりにくい入口、無限の可能性を意味するマークがあります。
中国料理には知られていないことがいろいろあり、知らなければ未知ですが知っていれば既知になります。未知との遭遇を主に劇を組むとわかりやすい高級食材のオンパレードになります。一方、既知があればその既知をベースにこれまでにない再構築をしてそれも未知との遭遇になります。その未知との遭遇を、その時卓を囲む者で経験を共有して、語らうのも楽しいです。
そのためには、シェフ、スタッフ、その場にいる人の既知を揃えて置く必要があります。
だから、わかりやすいアプローチになるわけなのですが、井桁シェフはあえて既知を必要とする食の深化に挑まれているわけです。
今宵私はアルコールが飲めなくなってしまったので、ノンアルコールで失礼します。
でもご安心をノンアルコールも充実しています。
アペリティフには東方美人に琵琶を漬け込んだスパイシーなスパークリングが今日せられました。香りよく炭酸が口の中に広がりおいしいです。
テーブルには本日提供されるお料理、「井桁劇場」の演目を書いたリーフレットが置いてあります。
井桁シェフは40歳になって四川料理の老舗で再修行して 名門「松雲門派」の免許皆伝をされました。その老四川をベースに唯一無二の私でも食べたことがない洗練された料理が供せられます。それ故、中国本土からもいらっしゃるとのことです。
今日もとても楽しみです。
最初の演目は「芙蓉」から・・・
四川省成都市の花は芙蓉です。豚の干し肉と 豆乳と白花豆を使って芙蓉に見立てて完成させたお料理です。
ふわふわの食感がきて白花豆の層で味わいが深まり美味しい。
二つ目の演目は「竹韻」で、フォアグラのパイです。
「竹韻」とは笹と笹が重なり響く音色のことで、豆腐の発酵調味料、腐乳でマリネしたフォアグラを、竹炭を練り込んだパイで挟んでいる料理です。
フォアグラの上はらっきょの泡(ぱお)菜(つぁい)です。
上には、 四川省の緑茶「竹葉青」の粉末がかけてあります。
#3「琵琶」
中国の弦楽器、琵琶をイメージした料理で、井桁シェフのスペシャリテです。
乳酸発酵させた泡菜の汁に漬けこんだボタン海老の料理です。
尾などの殻が香ばしく焼いてあり食べられ、味わい深い酸とあいます。
下には野菜の四川ピクルスともち麦のテクスチャ。ロックチャイブが添えてあります。
前回よりも、とても調和したお皿になっています。(私がお酒を飲まなくなったからかも知れません)
連れのワインは サバニャン コートドジュラ です。
なるほど。料理を食べると飲まなくてもワインの味わいがわかります。
#4「回望」
(古典料理「雪花鶏淖」)を振り返るというテーマのお皿です。
帆立ととうもろこし(ピュアホワイト)とサマートリュフのムースのような一品。
上にはむらさきウニがのせてあります。
紫蘇科の藿香(カッコウ、別名カワミドリ)のオイルがとても印象的かつ心地よいです。
ちなみに、Wikipediaによればカワミドリはシソ科カワミドリ属の多年草 。ハーブのアニスヒソップと同類で、草全体に芳香があり、長い紫色の花穂をつける。薬草として知られ、茎葉や根が漢方薬に用いられているとのことです。
一緒に四川省のジャスミンティーが供せられました。
#5「柳綠」
川の畔に自生するしだれる柳の葉をイメージした料理だそうです。
紹興酒でマリネした馬刺しの下には、へちま、万願寺唐辛子と皮蛋、新生姜 が丸く台になってあり、上にはオクラとレモンバームのパウダー 、その下にピスタチオがあります。
一番上はシトロンライムです。
#6「蓮花」
続いてはクロアワビの粽。時期が七夕ですからね。
柔らか煮の鮑、蓮粉を練った餅を纏っています
別皿には、鮑肝を蓮子でまとめたものと、蓮姜(ミョウガ)の赤酢漬けが添えてあります。
ミョウガの軽い酸味がとてもアクセントとして良い感じです。
#7「官燕」
燕の巣に見立てた冬瓜のスープです。
すっぽんの清湯スープと短角和牛の清湯スープでいわば「Wコンソメ」です。
すっぽんの上品なのに味わい深いスープと枝豆豆腐がとても合います。
一緒に白茶
#8「貴妃」
楊貴妃がシルクロードを通じてワインを好んでいたという説をお皿にしているそうです。
オマール海老と塩漬け唐辛子の赤ワインソースです。
このお料理も井桁シェフのスペシャリテだったと思います。
ワイン発祥の地のひとつとされるジョージア産オレンジワインを煮詰めたソースで、これはワインが欲しくなります。
青ザメとヨシキリサメのフカヒレを添えています。
黄色いのはサフランです。
#9「梅龍」
鱧、酸梅湯、青梅のお料理。甘酸っぱくて辛さがあり、おいしいです。
梅の古木、鱧を龍に見立てています。
次の料理の漆器の取り皿が置かれます。
#10「随園」
清時代の随園食単にもある伝統料理を四川のナマコ料理に仕立てた一品。
北海道の檜山産のナマコを豚スネ肉 、ムール貝とともにとろとろ・ふるふるに煮詰めています。アクセントに鶏冠油が入っています。
こちらは「椎茸に見立てた蒸しパンを探せ!」です。本日、本物は二つだそうです。
私はみごとに一発で見つけました。
海鼠はふるふるの食感で、濃厚な味わいです
一緒にプーアール茶が供せられます。
なまこや椎茸と合います。
#11「鮮」
モンゴル人からの14ヶ月ホゲット(羊)と魚を使った古典料理をオマージュした四川伝統蒸し物です
左側が羊肉とジャガイモのお料理で魚と羊で旨味を出しています。「鮮」の由来らしいです。右側が羊の四川パイ包み焼きです。
ここで四川地方のお祝い料理が目の前に。
後で仕上げて出てくるそうです。
#12「文明」
長江文明に関わっていたのではないかと謳われているイ族の日常食の韃靼蕎麦粉の麺をモチーフにしています。陳皮で香り付した鰻のった蕎麦です。
マイクロコリアンダーとセロリの薬味がとても良いですね。
陳皮香る鰻の韃靼蕎麦。これはおいしい!!
蒜と青山椒の香り。
#13「養心」
中医学で、心を養うことを意味するそうです。
メロンのアイスクリーム
ココナッツ、ハト麦、白キクラゲ、ミント
#14「喜筵」
四川地方の甜焼白というお祝い料理です。
材料はマンガリッツァ豚と緑豆の餡子と餅米です。
いやー、凄かったですね。
わかりやすい高級食材がオンパレードの中国料理店が多い昨今、古典料理を礎にこれだけ既知と技術と労に富む食べ応えがある料理は希有ですね。
ただし、料理に対する既知と経験が必要とされます。
井桁シェフのInstagramを日々見ながら、井桁シェフと既知のレベルがそろったら、すばらしい体験ができるでしょう。
そう言えば、昔、中国料理研究会というのがあって、良く誘われましたが、主催者はみんな隠居してしまいました。彼らが食べたら、きっと鼻血が出るのでしょう。
まさに、古典四川料理を深化させインスパイアした「井桁劇場」です。
それにしても、中国料理は奥深くて、はまりますね。
飄香
〒150-0012 東京都渋谷区広尾5丁目19−1 VILLAGE 1F 2
電話 03-6277-2141